ソノダマリ(高校パンフレット事情:カワセトモコ)
マンションポエムを32回、匂わせ暗号を6回やってきた。不動産広告はもう掘り尽くした。次の鉱脈を探していたとき、進路指導に詳しい友人のカワセトモコが言った。
「ソノダさん、高校のパンフレット見たことある? マンションポエムなんて目じゃないよ」
「一人ひとりが輝く場所。」
「夢を叶える場所、ここにある。」
「未来を拓くリーダーを育てる。」
「可能性は、無限大。」
「自分らしく、ここから。」
……全部同じに見える。
「一人ひとりが輝く」「夢を叶える」「未来を拓く」「可能性は無限大」「自分らしく」——どの学校のパンフレットを読んでいるのかわからなくなる。学校名を隠してシャッフルしたら、元の学校に戻せない。
マンションポエムの「上質がそびえる」「洗練の高台に」と同じだ。抽象語の組み合わせ。具体性の消去。シミュラクル。
しかしマンションポエムと決定的に違う点がある。読者が15歳だ。
カワセトモコは進路指導の現場で15年、高校のパンフレットを何百冊と見てきた。最初に教えてくれたのは、こういうことだった。
「ソノダさん、偏差値帯でパンフレットの文体がまったく違うの。上から順に見ていくと、言葉のトーンが変わっていくのがはっきりわかる」
これはマンションポエムの補填の原理(MP #9)そのものだ。訴求ポイントが薄いほどポエムが饒舌になる。偏差値が高い学校は数字で語れる。低い学校は——数字以外の言葉で埋めるしかない。
カワセは続けた。「面白いのはね、偏差値が下がるにつれて、言葉が優しくなるの。上位校は冷たいくらいに簡潔。下位校はすごく温かい。でもその温かさの裏に何があるかを、15歳は読めない」
| 偏差値帯 | パンフの主語 | キーワード |
|---|---|---|
| 70台 | 学校名だけ | (ポエム不要) |
| 60台 | 実績の数字 | 「進学実績」「合格者数」 |
| 50台 | バランス | 「文武両道」「充実した設備」 |
| 40台 | 生徒個人 | 「一人ひとり」「個性」「面倒見」 |
| 30台 | 居場所 | 「自分のペースで」「再出発」「ここがある」 |
偏差値70台の学校はポエムが要らない——名前がブランドだから。これはニューヨークの "432 Park Avenue"(MP #8)やハーバードの "Veritas"(S2#5)と同じ構造だ。
偏差値30台の学校は「居場所がある」と語る。これは補填の原理の極限形態——学力以外のすべてを言葉で埋めなければならない。ドバイの砂漠(MP #18)に似ている。
次回、この表を一段ずつ降りていく。
マンションのチラシを読むのは大人だ。求人広告も大人が読む。しかし高校パンフの主な読者は中学3年生(14〜15歳)。広告リテラシーがまだ育っていない。「一人ひとりが輝く」を額面通り受け取る。匂わせ暗号で鍛えた「変装を見抜く力」を、15歳は持っていない。
マンションは引っ越せる(S2#7)。大学は4年で卒業できる。しかし高校を中退すると学歴に傷がつく。15歳の選択は、大人の選択より後戻りのコストが高い。パンフレットのポエムに影響されて選んだ学校が合わなかったとき、ダメージは大きい。
マンションは自分で買う。高校パンフは親と子が一緒に読む。親は大人だから暗号をある程度見抜ける——しかし我が子の進路がかかっていると、冷静さを失う。「面倒見がいい」という言葉に、親は弱い。
マンション広告:大人が読む。引っ越せる。個人の判断
求人広告:大人が読む。転職できる。個人の判断
高校パンフ:15歳が読む。やり直しにくい。親子の判断
マンションポエムは「面白がる」シリーズだった。匂わせ暗号は「見抜く」シリーズだった。高校パンフレットのポエムは——面白がりながら、真剣に。
高校を攻撃するつもりはない。偏差値30台の学校が「居場所がある」と書くのは、嘘ではなく、その学校が本当に提供しようとしている価値かもしれない。問題は、その言葉の裏にある現実を、15歳が正しく理解できるかどうかだ。
カワセトモコは最後にこう言った。「パンフは入口。でもパンフだけで学校を選ぶ子がいる。だから私たち大人が、パンフの読み方を教えなきゃいけない」
それが、このシリーズの仕事だ。