指揮なんて、やりたい奴はいなかった。例によって、消去法で俺になった。埋め草のときと、流れは同じ。
でも今回は、ちょっと、本気だった。本気で、うちのクラスで一番いい合唱にしようと思った。
朝練を呼びかけた。パート別に音源を作った。サビのところ、ここでブレスして、って紙に書いて配った。
でも、クラスは、ついてこなかった。
朝練、半分も来ない。来ても、スマホ見てる。「タケウチ、まじめか」って、笑われた。悪気はない。ないんだけど。
俺が、どうにかしようとするほど、空回りした。本番、声は小さかった。アルトが半分、口パクだった。たぶん。
埋め草のときは、放っといても一行ずつ集まった。今回は、集めようとして、集まらなかった。
同じ本気のはずなのに。なんでだろ。わからん。
面白くもなんともない。ただ、うまくいかなかった。
結果発表のあと、俺は教室で、楽譜を集めてた。配った紙も、回収した。半分くらい、くしゃくしゃだった。
誰のせいにもしない。クラスのせいでも、自分のせいでもない、ってことにした。先生にも言わない。ソノダさんにも、言わない。
今回ばかりは、報告するもなにも、言葉にしたくなかった。ただ、ちょっと、へこんでた。
そしたら、角田が来た。
「片付け、手伝う」。頼んでない。ヤマモトも来た。椅子、並べはじめた。何も言わずに。
こいつら、朝練、来てなかったやつらだ。本番も、たぶん口パクだった。なのに、今、ここにいる。
委員長のサカモトも、楽譜の山を、こっちに持ってきた。委員長だから、まあ、当然か。
クラス全体は、動かなかった。最後まで。でも、この何人かは、頼んでないのに、来た。
角田が、椅子並べながら、「来年もあるしな」って言った。
「合唱、来年もあんのかよ。最悪だ」って、俺は言った。ちょっと笑った。久しぶりに。
全員は、動かせなかった。たぶん、来年も動かせない。俺の本気は、全員には届かない。
でも、頼まなくても来るやつが、何人かいる。
それで、たぶん、十分だ。
もう一回、やる。次は、合唱じゃないといいけど。
ソノダ:うまくいった埋め草より、うまくいかなかった合唱のほうが、ほんとうのことを教えてくれます。全員は動かない。けれど、頼まなくても来る人が、何人かいる。その何人かが来たのは、彼が勝とうが負けようが、本気だったからでしょう。——と、ここまで書いて、これも私が勝手に意味を足しているだけかもしれませんが。