あいにく
日程調整メールの修辞 #2 リスケのお願い

キリシマミサキ(秘書)

すでに確定している予定を、こちら側の都合で変更してもらう「リスケ」のメールには、候補日提示よりも、もう一段、神経を使う作法があります。

件名:◯月◯日のお打ち合わせの件【日程変更のご相談】

◯◯様

お世話になっております。
誠に勝手ながら、あいにく、急遽◯◯の予定が入りまして、◯月◯日◯時にお約束しておりましたお打ち合わせを、別日に変更させていただけないでしょうか。

誠に申し訳ございません。
差し支えなければ、下記候補日でご都合いかがでしょうか。

 第1希望:◯月◯日(◯)10:00 - 11:00
 第2希望:◯月◯日(◯)14:00 - 15:00

ご多忙のなか、改めての日程調整となり、誠に恐縮です。
よろしくお願いいたします。

「あいにく」の役割

リスケメールでよく出てくる「あいにく」という副詞は、辞書的には「都合の悪いことに」という意味で、こちら側の事情で都合が悪くなった、ということを示します。気をつけたいのは、「あいにく」が、こちら側の責任の所在を、少しだけ薄める働きを兼ねていることです。

「あいにく、急遽◯◯の予定が入りまして」と書くと、予定が入ったのは、こちら側の意思とは別の、外的な何かのように感じられます。「あいにく」がない場合、「急遽◯◯の予定が入りまして」だけだと、誰の都合で予定が入ったのか、責任の主体が、もう少しはっきりします。

これは、嘘をついているわけではありません。実際、リスケの理由が「上司の急な指示」だったり、「家族の体調不良」だったり、「先方からの突発的な要請」だったりするので、こちら側の能動的な意思で予定を変更したわけではない、という事実が、たいていの場合あります。「あいにく」は、その事実を、形式として表現する語です。

理由を、書くか書かないか

リスケメールの最大の判断ポイントは、変更の理由を、どこまで書くか、です。書きすぎると、相手に「言い訳がましい」と感じさせる。書かなすぎると、相手に「失礼だ」と感じさせる。書く・書かないの境界には、関係性と、理由の性質と、両方が関わります。

理由を書く場合の典型例は、こんなものです:

これらは、相手から見て「これなら仕方ない」と思える理由です。書くことで、こちら側の事情への理解を引き出します。

理由を書かない場合の典型例は、こんなものです:

これらは、具体の理由を伏せたまま、変更の必要性だけを伝えます。理由が個人的すぎる場合(家族のトラブル、自分の体調、人間関係の事情など)、または、理由を開示すると別の問題が発生する場合(上司の指示の中身が機密、別の取引先の事情など)に、この形を選びます。

「あいにく」「やむを得ない」「社内事情」は、理由を開示しないことを、形式として正当化するための語彙です。

「やむを得ない事情」の便利さ

「やむを得ない事情」という言い回しは、リスケメールで非常に便利な表現です。「やむを得ない」は、「こちら側で回避できなかった」という意味で、相手から見て、こちら側の責任を問いにくくします。

使いすぎには注意が必要です。同じ相手に対して、何度も「やむを得ない事情」でリスケすると、相手は「この人はいつもやむを得ない事情があるな」と気づき始めます。気づかれた段階で、「やむを得ない」の効力は、薄れます。秘書業務では、同じ相手に対する「やむを得ない事情」のリスケは、せいぜい一年に一回までを目安にしています。

逆に、相手側から「やむを得ない事情」でリスケが来た場合、こちら側は何も詮索しないのが、不文律です。「やむを得ない事情とは何ですか」と聞くのは、礼儀として外れます。理由を開示しないことを選んだ相手の、その判断を、尊重する。

新候補の出し方

リスケメールで、もう一つ重要な判断は、新しい候補日を、いつ出すか、です。

同じメールの中で、変更の依頼と新候補を、両方一緒に出す方法があります。これは、相手側の往復回数を減らす効率重視の作法。「変更させていただけないでしょうか。差し支えなければ、下記候補日でご都合いかがでしょうか」と、二段で書く形です。

もう一つの作法は、まず変更の依頼だけを送って、相手の了承を得てから、別便で新候補を出す方法。「いったんキャンセルさせていただき、改めて日程調整のご相談をさせていただきます」と書いて、二便に分けます。これは、変更の重さに対する詫びを、独立して伝えたいときに使います。

どちらを選ぶかは、関係性と、変更の急ぎ度によります。実務上は、効率重視で同便にすることが多いですが、相手が役員クラスや、こちらが大きく恐縮しなければならない場面では、二便に分けることもあります。

「差し支えなければ」のクッション

新候補を出すときに、「差し支えなければ、下記候補日でご都合いかがでしょうか」という言い方をします。「差し支えなければ」は、新候補を提示することへの、二重の遠慮を示す表現です。

一度こちら側の都合で予定をキャンセルしておきながら、こちら側からまた候補を出すというのは、相手の時間を二度使わせる行為です。「差し支えなければ」は、その二度目の依頼への配慮を、形式として組み込んでいます。

同じ意味の代替表現として、「お手数ですが、改めて日程をお決めいただけますでしょうか」もあります。これは、新候補をこちら側から出さずに、相手側に新たに候補を出してもらう形。状況によっては、こちらが候補を出さないほうが、相手のスケジュールに合わせやすい場合があります。

詫びの重さの調整

リスケメールの全体的なトーンは、「詫びの重さ」をどこに置くかで決まります。詫びが軽すぎると、相手は「軽く考えている」と感じる。重すぎると、相手は「逆に気を遣わせている」と感じる。中央のどこかに、適切な重さの詫びを置く作業が、リスケメールの設計の中心です。

標準的な構成では、詫びは三段になります。冒頭で「誠に勝手ながら」と前置きし、中盤で「誠に申し訳ございません」と本題の詫び、結末で「ご多忙のなか、改めての日程調整となり、誠に恐縮です」と再度の詫び。三段の重さの配分は、変更の重要度・関係性の濃度・相手の役職などで、上下に調整します。

軽量化する場合:「誠に勝手ながら」を「お忙しいところ恐縮ですが」に変える、結末の詫びを省略する、などで、詫びを薄めます。重量化する場合:冒頭に「直前のご連絡となり」を加える、本題の詫びを「重ねてのご無理を申し上げ、誠に恐縮です」に変える、結末で「今後このようなことのないよう」を入れる、などで、詫びを厚めにします。

厚みの判断は、相手と、変更の理由と、関係性の歴史によります。同じ「リスケ」でも、初対面の相手と、十年来の付き合いの相手では、必要な詫びの厚さが違います。

「あいにく」の限界

「あいにく」を使ったリスケメールが、いつでも有効、というわけではありません。同じ相手に対して、二度目、三度目のリスケになる場合、「あいにく」では足りなくなります。

その場合、別の構文に切り替えます。「重ねての変更となり、誠に恐縮ですが」と書くことで、リスケの繰り返しを認識していることを、相手に伝えます。「重ねての」を入れると、こちら側が、自分の繰り返しに気づいている、という事実が、相手に伝わります。気づいていない人と、気づいている人では、相手の受け取り方が違います。

三度目のリスケになる場合は、メールではなく、電話で詫びることも検討します。電話のほうが、声のトーンで詫びの重さを伝えられます。リスケの繰り返しは、関係性のリスクが累積するので、メールだけで処理しないほうがいい場面が、あります。

変更を含む関係性

リスケメールが秘書業務で頻繁に発生するのは、業務のなかで予定が変わることが、想定外ではなく日常だからです。日程は確定したあとも、外部要因や内部要因で、変更されうる。変更されることを前提にしたうえで、変更されたときに、関係性のダメージを最小化する作法として、リスケメールの定型が、長年かけて整えられてきました。

「あいにく」「やむを得ない」「差し支えなければ」「重ねての」——これらの語彙は、変更を含む関係性のなかで、双方の体面を保つための、薄い緩衝材です。緩衝材があるから、関係性は変更を吸収できる。緩衝材がない世界では、変更のたびに関係性に小さな傷がつきます。傷がつかないために、定型は残っています。

——補記:この第一稿は公開後に辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。本文中のメール例は構文を再現した架空合成例で、特定企業・個人への言及ではありません。