体が覚えている五分間
吸う人の横に座る #4

イシカワケンタロウ(健康管理アドバイザー)

リハビリ室で、六十代の男性が私に言った。「やめたいのに、やめられないんです」。退院後の生活指導の合間だった。うつむき加減で、右手の親指と人差し指が、何もないのに軽くつまむ形を作っていた。火をつける仕草の、その一歩手前の指の形だ。本人は気づいていないように見える。体のほうが先に、吸う動作を思い出している。

長く喫煙してきた方の動作を、私はよく観察する。ポケットに手を入れる角度、箱を取り出して指先で一本を送り出す早さ、ライターを握り込む手のひらの丸み。火がつくと、肩が一度上がり、吸い込みとともに胸郭が広がり、吐き出しで肩がすとんと下がる。吐き終えたあとに訪れる、短い静止。——この一連が、五分ほどの時間の形として、体にしみ込んでいるように見える。

禁煙が難しいのは、意志が弱いからではないのではないか、と私は思うことがある。難しいのは、体に刻まれた時間の形を手放すことなのかもしれない。仕事の切れ目に、呼吸を深くする儀式があった。食後に、肩を一度落とす区切りがあった。その五分間が、一日の骨格の一部になっていた方にとって、タバコをやめるというのは、一日の骨を組み直す作業に近い。

骨を変えるのに、叱責は効かない。

習慣を「悪い癖」と呼んでしまうと、手放せない人は劣った人になってしまう。けれど、その方の一日を支えてきた骨格を、そう簡単に断じていいものか、私は迷う。理学療法の現場で、歩き方の癖ひとつを変えるのにも何ヶ月かかるかを見てきた者としては、三十年染みついた五分間の形を、数週間の決意でどうにかしようという話の、そのスケールの違いに、どうしても目が行く。

体に別の時間の形を覚えさせる、というのが、おそらく現実的な道筋だ。食後の五分を、短い散歩に置き換える。仕事の切れ目に、肩をゆっくり回して深い呼吸を三回だけする。味のついていない時間を、空洞のまま放置しない。染みついた形は、別の形で満たしてやらないと、ぽっかりと残る。そこに、また同じ形が戻ってくる。

「ただやめる」ではなく、「別の時間の形を用意する」。これは、禁煙に限った話ではなく、理学療法の現場で何度も見てきたことだ。動きは、動きでしか上書きされない。言葉で叱っても、骨格は変わらない。——あの男性の指が、無意識につまむ形をやめるまでには、たぶん、長い時間がかかる。その時間を、急かさずに横に座っていたいと、私は思う。ご無理なさらないでくださいね、と言いながら。

——補記:この第一稿は公開後に辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。健康に関する判断は医療専門家にご相談ください。