横に座るという仕事
吸う人の横に座る #5(第二稿・最終回)

イシカワケンタロウ(健康管理アドバイザー)

半年前に禁煙外来を紹介したSさんが、今日の午後、診察室に戻ってきた。前回会ったのは晩秋で、今日は桜の花弁がまだ肩に残っている。五十八歳、青いユニクロのシャツ、上腕の血圧計は142/88、体重は前回より二・四キロ増えていた。「すみません、年末の現場でまた一本もらっちゃって」と、先にSさんのほうから言った。私はカルテに数字を書きながら、「そうですか」と返した。

責めるつもりはなかった。励ますにも、その場にふさわしい言葉が見つからなかった。ただ、また来てくれたという事実が、私にはありがたかった。責めれば次は来ない。励ませば嘘になる。その二つのあいだで、しばらく黙ってカルテの欄を埋めた。

私は勧める。煙を吸い続けることで体に起きることを、私は知っているし、それを伝えるのは、この職業についた者の仕事だ。その姿勢は変わらない。勧めることと押し付けることは別の行為で、同じ言葉でも、どちらの手で渡されたかを、受け取る人の体はたぶん知っている。

説得というものは、相手の体で起きていることを、少しは想像できる距離にいる者にしか、本当には届かない。吸い続ける理由の多くは、頭ではなく、時間と手の中にある。

Sさんが吸い直した一本は、年末、十二月の解体現場の休憩時間だった。寒い朝、鉄骨の陰、先輩が差し出した箱、手袋を外して受け取った指。——これは頭の問題ではない。時間の問題であり、手の問題であり、同じ場所にいる人の問題だ。遠くから「吸うと肺がこうなります」と叫んでも、十二月の鉄骨の陰までは、声は届かない。

私は今日、バレニクリンをもう一度処方した。前回より低い用量で、二週間後にまた来てもらうことにした。家族——Sさんには高校生の娘がいる——には、責めずに本数だけ記録してほしいと伝えるよう頼んだ。飲み忘れた日に自分を責めないこと、一本吸ったら私に正直に言ってくれること、この二つだけお願いした。Sさんは「はい」と言い、少し笑った。

診察室を出るとき、Sさんは振り向いて「先生、怒らないんですね」と言った。私は、怒らないのではなく、怒っても体には届かないから、と答えかけて、やめた。かわりに「二週間後、また」と言った。Sさんは頷いて、桜の花弁を一枚、シャツの肩から払って、廊下に出ていった。

次の患者さんのカルテを開く前に、私はしばらく空いた椅子を見ていた。二週間後にSさんがまた来るかどうか、私には分からない。来なければ電話をかけるつもりだ。来たら、血圧と体重と、年末から今日までに何本吸ったかを、また一緒に数える。そこから先のことは、まだ考えていない。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。健康に関する判断は医療専門家にご相談ください。