シライショウタ(ポエマイゼーション:ソノダマリ)
ソノダマリがポエマイゼーションを提唱した。事実がポエムに変わる6つの操作——補填、翻訳、蒸発、消去、変装、増幅。50本の記事で見出した概念だ。
面白い。本当に面白い。だがエンジニアの自分には、別の問いが浮かんだ。
AIはポエマイゼーションを加速するのか。それとも殺すのか。
まず技術的な話をする。ChatGPTやClaude、Geminiといった大規模言語モデル(LLM)がコピーを書くとき、中で何が起きているか。
ごく単純化すると、LLMは「次に来る確率が高いトークン(単語の断片)を選び続ける装置」だ。「このマンションは」の次に「上質」が来る確率が高ければ「上質」を出す。「上質」の次に「な」が来る確率が高ければ「な」を出す。そうやって一語ずつ、確率的に文章を紡ぐ。
「確率的オウム」(stochastic parrot)という批判がある。訓練データに含まれる文章パターンを再生産しているだけだ、と。この批判は半分正しい。しかし半分は的外れだ。なぜなら——
広告コピーの大半は、もともと確率的オウムが書いたようなものだから。
ソノダがDXポエム#2でバズワード偏差値表を作った。Tier 1(大企業)は「DXを推進するエンタープライズソリューション」。Tier 2(中堅)は「業務効率を最大化するクラウドプラットフォーム」。Tier 3(中小)は「誰でも簡単DX!」。どの企業のLPを開いても、同じ言葉が並んでいる。
つまり人間のコピーライターも、すでに「確率の高い言葉」を選んでいた。LLMがやっていることと、構造的に同じだ。LLMがコピーライターの仕事を奪えるのは、コピーの大半がそもそもパターンの再生産だったからだ。
ここからが本題だ。LLMがコピーを書くだけなら、人間のコピーライターの代替にすぎない。しかし現実にはもう一つの仕組みが組み合わさっている。A/Bテストの自動化だ。
典型的なフローはこうだ。
AIコピー生成パイプライン(2025年現在の典型)
ここで何が起きるか。ポエムの「良さ」の定義が変わる。
従来のポエムには——良くも悪くも——人間のコピーライターの美意識があった。「上質がそびえる」を書いた人は、おそらくこの言葉の響きを美しいと思ったはずだ。意味が曖昧であることを知りながら、音の快さを選んだ。それは一種の芸術的判断だ。
A/Bテストはそれを無効化する。「上質がそびえる」と「暮らしが、目覚める」をユーザーに見せて、クリック率が高い方を残す。美しさは関係ない。CTRだけが評価関数だ。
ポエムは「人間の感性の産物」から「クリック率の関数」になる。
コピーライターの美意識は、勾配降下法に置き換えられる。
ソノダの6つの操作を、LLMの振る舞いに重ねてみよう。
| 操作 | 人間のコピーライター | LLM |
|---|---|---|
| 補填 | 弱みを知っていて、意図的に言葉で埋める | 「高級マンションの広告を書いて」と指示すれば、物件の弱みを知らなくても「上質」「邸宅」を出力する。訓練データのパターンがそうなっているから |
| 翻訳 | 文化的文脈を踏まえて表現を変形させる | 多言語モデルは翻訳時に自動的に文化的変形を行う。"luxury"が「ラグジュアリー」になるか「上質」になるかはコンテキストに依存 |
| 蒸発 | 意味の一部が翻訳で失われることを承知のうえで(あるいは気づかずに)使う | LLMは定義を保持したまま出力することも、曖昧なまま出力することもできる。プロンプト次第でどちらにも振れる |
| 消去 | 都合の悪い情報を意図的に省く | 「魅力的な広告を書いて」と指示すれば、ネガティブ情報は自動的に省かれる。明示的に消去を指示する必要すらない |
| 変装 | ネガティブをポジティブに言い換える技術 | 「以下のネガティブポイントをポジティブに言い換えて」——LLMが最も得意とするタスクの一つ |
| 増幅 | カタカナ化で権威を増す | 日本語コンテキストでは、LLMは頻繁にカタカナ語を混ぜる。訓練データにカタカナ混じりのビジネス文書が大量にあるため |
注目すべきは「無自覚に」という点だ。人間のコピーライターは——少なくとも優秀なコピーライターは——補填や変装を意識的に行っている。「ここは弱いから言葉で埋めよう」という判断がある。
LLMにはそれがない。「マンション広告を書いて」と言われれば、訓練データに含まれるマンション広告のパターンに従って出力する。そのパターンには補填も消去も変装もすでに組み込まれている。LLMはポエマイゼーションの操作を、操作として認識せずに実行する。
人間は「嘘をついている」自覚がある(ことがある)。
LLMには自覚がない。パターンを再生産しているだけだ。
これは倫理的に良いことなのか、悪いことなのか。
正直に言う。わからない。
エンジニアとして一番気になるのは、実はこの問題だ。
LLMは訓練データの平均に向かう傾向がある。温度パラメータ(temperature)を下げれば下げるほど、最も確率の高いトークン——つまり最も「ありがちな」言葉——を選ぶ。A/BテストでCTRを最大化すれば、さらに「刺さる」パターンに収束する。
結果として何が起きるか。
AIコピーの収束予測
気づいただろうか。もう半分こうなっている。
ソノダがDXポエム#4で20語のカタカナ暗号辞典を作れたのは、すでに人間のコピーライターが均質化していたからだ。LLMはそれをさらに加速する。全員が同じ訓練データから学んだモデルが、全員のコピーを書くのだから。
皮肉な帰結がある。均質化が極まると、ポエマイゼーションは無効化される。ソノダの6操作のうち「補填」は、差別化できない弱みを言葉で埋める操作だ。しかし全員が同じ言葉で埋めるなら、もはや補填にすらならない。「DXを加速する」が全社のLPに書いてあるなら、それは何も言っていないのと同じだ。
ポエマイゼーションは、ある程度の多様性があって初めて機能する。「上質がそびえる」が刺さるのは、他のマンション広告が別の言葉を使っているからだ。全員が「上質がそびえる」と書いたら、もう誰も立ち止まらない。
ただし、均質化とは逆の未来もありえる。
現在のA/Bテストは「全ユーザーに対して最もCTRが高いコピー」を選んでいる。しかし技術的には「ユーザーごとに最適なコピーを生成する」ことが可能だ。年齢、職業、閲覧履歴、検索キーワード——これらのデータからユーザーのペルソナを推定し、一人ひとりに「刺さる」コピーをリアルタイムで生成する。
これはすでに一部で始まっている。動的パーソナライゼーション(dynamic personalization)と呼ばれる技術だ。
30代の共働き夫婦には「子育てを見守る、安心の住まい」。
50代のリタイア準備層には「人生の実りを、ここで」。
20代の投資目的層には「資産が育つ立地」。
同じマンションの広告が、見る人によって変わる。
これはポエマイゼーションの加速だ。しかも従来とは質的に異なる加速。従来のポエマイゼーションは「一つの事実を一つのポエムに変換する」操作だった。AIパーソナライゼーションは「一つの事実を、受け手の数だけのポエムに変換する」操作だ。
ソノダの6操作でいえば、補填のカスタマイズが起きる。物件の弱みを埋める言葉が、受け手によって変わる。子育て世帯には「安心」で埋め、リタイア層には「充実」で埋め、投資家には「利回り」で埋める。同じ弱みに、相手の欲望に合わせた言葉を充てる。
これはもはや「ポエム」と呼べるのか。人間のコピーライターが書いた「上質がそびえる」には、万人に向けた曖昧さがあった。その曖昧さにこそ味があった。パーソナライズされたコピーには曖昧さがない。正確に、あなたの欲望を射抜く。
もう一つ、技術者として指摘しておきたいことがある。
ソノダの分析が価値を持つのは、ポエムを外側から見ているからだ。「上質がそびえる」を読んで、「これは補填だ」と名指しできる。書いてないものに気づける。変装を剥がせる。
LLMにはそれができない。
試しにChatGPTに「以下のマンション広告のポエマイゼーションを分析してください」と頼めば、もっともらしい分析を返す。だが同じChatGPTに「マンション広告を書いてください」と頼めば、自分が分析したばかりのパターンをそのまま再生産する。分析と生成が分離している。自分の出力を批判的に見る再帰的な能力——「これは補填ではないか」「これは変装ではないか」と自問する能力——はLLMにはない。
人間のコピーライターは(少なくとも自覚的な人は)「これは盛っている」と知りながら書く。読者もまた「広告だからね」と知りながら読む。書き手と読み手の間に、暗黙の了解がある。
LLMがコピーを書く時代には、この了解が崩れる。書き手(AI)には「盛っている」という自覚がない。そして読み手は、相手がAIだと知らないかもしれない。
ポエマイゼーションの暗黙の了解
| 従来 | 書き手(人間)は盛っていることを知っている。読み手も広告だと知っている。共犯関係。 |
| AI時代 | 書き手(AI)は盛っているという概念を持たない。読み手はAIが書いたと気づかないかもしれない。共犯関係の崩壊。 |
最初の問いに戻ろう。AIはポエマイゼーションを加速するのか、殺すのか。
答えは——加速する。しかし殺しはしない。
殺せない理由は単純だ。ポエマイゼーションは需要側の現象だからだ。
コピーライターがポエムを書くのは、ポエムが売れるからだ。LLMがポエムを生成するのは、ポエムのパターンが訓練データに大量にあるからだ。そして訓練データに大量にあるのは、人間がポエムを書き続けてきたからだ。そして人間がポエムを書き続けてきたのは——ポエムが売れるからだ。
循環している。そしてこの循環を断ち切るには、ポエムが売れなくなる必要がある。「上質がそびえる」を読んで心が動かなくなる必要がある。「DXを加速する」を読んでクリックしなくなる必要がある。
しかし現実はどうか。AIが書いたポエムのCTRは、人間が書いたポエムと同等か、しばしば上回る。A/Bテストのデータがそう言っている。ポエムは売れている。ポエマイゼーションの需要は、AIによって消えるどころか、むしろ効率的に満たされるようになった。
ポエマイゼーションが死ぬのは、人間がポエムに反応しなくなったときだけだ。
AIがどれだけ進化しても、クリックするのは人間だ。
ポエムの需要がある限り、ポエマイゼーションは不滅だ。
最後に、ソノダへの手紙として書く。
AIがポエムを大量生産する時代に、ポエマイゼーションの分析の価値は下がるのか。逆だと思う。上がる。
理由は3つある。
ソノダが書いたポエマイゼーションの3つの対抗手段——「書いてないものを問え」「実物を見に行け」「同じ言葉が繰り返されたら疑え」——は、AIが書いたポエムに対しても有効だ。むしろAIが書いたポエムにこそ有効だ。なぜなら、LLMは「同じ言葉を繰り返す」傾向が人間より強いから。
ソノダの分析は、AIに対するリテラシーツールでもある。本人はそのつもりで書いていないだろうが。
LLMはポエマイゼーションの6操作すべてを、無自覚に、高速に、大量に実行できる。A/Bテストと組み合わせれば、「最も刺さるポエム」を自動的に発見できる。パーソナライゼーションが進めば、一人ひとりに最適化されたポエムが届く。
ポエムの黄金時代は終わるのか。終わらない。むしろ始まる。ポエムの総量は爆発し、ポエムの精度は上がり、ポエムの個別化は進む。ポエマイゼーションは加速する。
しかし——
ポエムを書くのがAIになっても、
ポエムを読むのは人間だ。
騙されるのが人間なら、見抜くのも人間の仕事だ。
ソノダのポエマイゼーションは、
AIの時代にこそ必要な、人間の道具だと思う。