ソノダマリ(IT業界事情:ナカムラタクミ)
高校パンフレットのポエム#6(最終回)で、カワセトモコに聞いた。「15歳にパンフの読み方を教えるとしたら、3つだけなら何を教える?」。カワセは3つのルールをくれた。
今度はナカムラに聞く。「SaaS導入を検討している決裁者に、LPの読み方を教えるとしたら? 3つだけなら」
ナカムラは少し笑った。「奇遇だね。俺も3つだと思う」
#4のカタカナ暗号辞典で20語を解読した。その核心をルールにする。
やってみよう
気になるSaaS企業のLPを開いて、カタカナを全部日本語に置き換えてみよう。
「アジャイルでスケーラブルなエンタープライズグレードのソリューション」
↓
「俊敏で拡張可能な大企業向け品質の解決策」
↓
……で、具体的に何ができるの?
日本語にしても意味が通る文章なら、そのLPは信用できる。
日本語にしたら中身がなくなるなら、それはポエムだ。
高校パンフ#6のルール3「同じ言葉が何校にもあったら、それは暗号」の変奏だ。「DXを加速する」は何百社が使っている。何百社が使える言葉に、固有の意味はない。
#3で導入事例のポエム性を分析した。Before→Afterの物語。選ばれた声。打消し表示のない世界。
やってみよう
導入事例を読んだら、以下を自問しよう。
載っていない企業のことを想像するだけで、導入事例の見え方が変わる。
高校パンフ#6のルール1「書いてないものは何か」の変奏だ。パンフレットが進学実績を書いていなければ弱いかもしれない。導入事例が失敗事例を書いていなければ——当たり前だが——失敗した企業がいないわけではない。
高校パンフ#4でカワセが言った。「パンフの写真は一番いい日の一番いい瞬間。あなたが3年間過ごすのは普通の日」。だから説明会に行け、できれば文化祭でない日に、と。
SaaSも同じだ。LPは「一番いい状態」のモデルルーム。デモ動画は完璧に動く。スクリーンショットは美しい。しかしあなたの会社で、あなたのデータで、あなたのチームが使ったときに同じように動くかは——やってみないとわからない。
やってみよう
ほとんどのSaaSには無料トライアルがある。
ナカムラ:「LPで決裁する部長が多すぎる。LPを見て予算を動かすのは、モデルルームを見てマンションを買うのと同じ。内見しろ。住んでみろ。SaaSなら無料で住める期間があるんだから」
| 15歳のルール (高校パンフ#6) |
決裁者のルール (本稿) |
|
|---|---|---|
| 1 | 書いてないものは何か | 導入事例に載っていない企業を想像しろ |
| 2 | 写真は一番いい瞬間 | LPはモデルルーム。トライアルで内見しろ |
| 3 | 同じ言葉が何校にもあったら暗号 | カタカナを日本語に置き換えろ |
同じルールだ。言葉を変えただけで、構造は同じ。15歳が高校パンフを読む力と、40代の部長がSaaS LPを読む力は、同じ筋肉で動いている。
マンションポエムの世界(全22回)から始まった旅。続・マンションポエム(全10回)で6つのジャンルに広がり、匂わせ暗号(全6回)で実践的な解読術になり、高校パンフ(全6回)で15歳に手渡す道具になり、DXポエム(全6回)で大人の仕事場に持ち込んだ。
全50本。ソノダ、こんなに書くつもりだったか。なかった。マンションポエムが面白かっただけだ。
ナカムラ:「でもソノダさん、ポエムを分析するのはポエムを馬鹿にするためじゃないよね」
違う。ポエムは悪ではない。「上質がそびえる」も「DXを加速する」も「一人ひとりが輝く」も、それ自体が悪いわけではない。広告には広告の仕事がある。3秒で印象を伝えるために、ポエムは合理的な手段だ。
問題は、ポエムを事実と混同することだ。「上質がそびえる」を読んで「ここは上質なマンションだ」と信じること。「DXを加速する」を読んで「このツールでDXが加速するんだ」と信じること。「一人ひとりが輝く」を読んで「この学校なら輝けるんだ」と信じること。
ポエムとデータを区別すること。それが、50本かけて言い続けてきたことだ。
#1でナカムラが言った言葉を、もう一度。
「IT企業の人はSaaSポエムを笑える。
でも保険のポエムには騙される。
逆もまた然り。
全員が、どこかの分野では15歳なんだよ」
不動産屋はマンションポエムを笑える。でもSaaSのLPには騙されるかもしれない。IT企業の人はSaaSポエムを笑える。でも高校パンフに騙されるかもしれない。教師は高校パンフを笑える。でも結婚式場のカタログに騙されるかもしれない。
専門外の分野では、誰もが暗号を読めない15歳に戻る。
だから「読み方」を持つことに意味がある。3つのルールは、SaaSだけでなくあらゆる広告に使える。カタカナを日本語に置き換えること。書いてないものを想像すること。実物を見に行くこと。
マンションポエムの「上質がそびえる」を笑ったあの日から、50本。笑う力が、読む力になった。それがこの長い旅のいちばんの収穫だ。