悪くない、合理的なだけ
ジュンと数学研究会、テスト終わりのファミレスで——ジュンのトロッコ問題シリーズ #2

ジュン、高校二年、二組。期末テストが終わった金曜の夕方。数学研究会の六人で、駅前のファミレスに、打ち上げに行った。

六人

金曜の夕方、テストが終わって、六人で、ファミレスの窓際の、六人席に、座っていた。タイラ、ノブ、ハルカ、ミナ、サトル、それと自分。数学研究会の同期。中学の数学コンテストで知り合って、高校でも同じ部活に入った仲間。

注文は、ばらばらだった。タイラはミラノ風ドリアの大盛りで千二百八十円、ノブはハンバーグセットで千五百五十円、ハルカはパスタセットで千百八十円、ミナは和風きのこパスタで千二十円、サトルはサラダのセットで七百八十円、自分は日替わりのオムライスで千百八十円。ドリンクバーは全員つけた。それぞれ三百三十円。

食べ終わって、伝票を、テーブルに、置いた。合計、八千二百四十円だった。

割り勘

「えー、八千二百四十円か」と、タイラが、言った。「割り勘、千四百円ずつでいいんじゃない?」

千四百×六で八千四百円。差額の百六十円は、誰かが多く払うか、お店への寄付になる。

伝票を、自分のほうに、引き寄せた。

「待って」

「ジュン、なに?」

「割り勘って、注文額が違うのに、均等に割る、ってこと?」

「うん、ふつう、そうじゃん」

「それは、正確には、不公平」

「えっ」

「ノブはハンバーグセットで千五百五十円、サトルはサラダで七百八十円。差は、七百七十円。それを、千四百円の均等割にすると、ノブは百五十円得して、サトルは六百二十円損する。サトルが、ノブの夕食を、六百二十円分、補助していることになる」

サトルが、伝票を、覗き込んだ。

「あ、ほんとだ」

「正確に、各自の注文額に、ドリンクバー三百三十円を足した金額を、それぞれ払うほうが、合理的」

「めんどくさい、けど、計算してくれるなら、まあ」と、ハルカが、言った。

「うん、計算する」

紙ナプキンの計算

紙ナプキンを、一枚、引き抜いて、ボールペンで、書き始めた。

タイラ:1280+330=1610円
ノブ:1550+330=1880円
ハルカ:1180+330=1510円
ミナ:1020+330=1350円
サトル:780+330=1110円
ジュン:1180+330=1510円

合計:8970円。

あれ、と思った。伝票の合計は、八千二百四十円だった。差が、七百三十円ある。

「ジュン、計算、合ってる?」と、タイラが、言った。

「合ってる、けど、伝票の合計と、合わない」

もう一度、伝票を、確認した。クーポン割引が、入っていた。学割で、合計から十パーセント引かれていた。

「学割。十パーセント引きだ」

「あ、なるほど」

各人の金額に、〇・九を、掛け直した。

タイラ:1610×0.9=1449円
ノブ:1880×0.9=1692円
ハルカ:1510×0.9=1359円
ミナ:1350×0.9=1215円
サトル:1110×0.9=999円
ジュン:1510×0.9=1359円

合計:8073円。あれ、まだ、合わない。伝票は、八千二百四十円。

「サービス料?」と、ノブが、言った。

伝票を、もう一度、見た。サービス料、二パーセント。

各人の金額に、一・〇二を、掛けた。最終的に、こうなった。

タイラ:1478円
ノブ:1726円
ハルカ:1386円
ミナ:1239円
サトル:1019円
ジュン:1386円

合計:8234円。十円未満の端数で、伝票の八千二百四十円とは、六円のずれが残ったが、許容範囲だった。

紙ナプキンを、テーブルの、真ん中に、置いた。

レジで

レジに、六人で、並んだ。一人ずつ、自分の金額を、出した。

サトルが、千十九円を、出した。財布から、千円札と、五十円玉と、十円玉を、組み合わせて。

「ジュン、ありがと、計算してくれて」と、サトルは、言った。

サトルの「ありがと」は、いつもと、同じだった気がした。

ノブが、千七百二十六円を、出した。札を、出して、お釣りを、もらった。

「なんか、悪いな」と、ノブが、言った。

ノブの「悪いな」は、いつもと、少し、違う気がした。

「悪くない、合理的なだけ」と、答えた。

ノブは、「うん」と、頷いた。それから、財布を、しまった。

駅まで

ファミレスを出て、駅まで、六人で、歩いた。

会話は、いつもより、少し、少なかった。

いつもの金曜なら、テスト終わりの解放感で、ノブが大声で何かのギャグを言って、タイラがツッコミを入れて、サトルが笑い転げる、というパターンだった。今日は、そのパターンが、起きなかった。

みんな、それぞれの方向の電車に、乗った。「またな」「また」を、いつも通りに、交わして、別れた。

電車の中

電車に乗って、ドアの近くに、立っていた。

頭の中で、整理は、ついていた。

正確な割り勘で、各人が、自分の注文額に応じた金額を、払った。これは、経済学的に公平だった。誰も、誰かを、補助しなかった。誰も、補助されなかった。各人の負担は、各人の選択に、対応していた。

これは、合理的だった。

合理的だった、はず、だった。

ノブの「悪いな」が、いつもと、少し、違った気がした。

気がした、だけ、かもしれない。

「悪い」は、客観的には、正しくなかった。ノブは、自分の食べた分の金額を、払っただけ。誰にも、何も、悪くなかった。

客観的に「悪くない」のに、主観的に「悪い」を感じる。これは、経済学では、説明できない。

説明できない、というのは、たぶん、自分の側の道具が、足りない、ということだった。

家で

家に、着いた。自分の部屋で、机に、向かった。

紙ナプキンを、鞄から、取り出した。タイラ:1478円、ノブ:1726円、ハルカ:1386円、ミナ:1239円、サトル:1019円、ジュン:1386円、と、書いてあった。

これは、正しい。間違いは、ない。

正しいのに、何かが、残っていた。

残っていた、というのは、ノブの「悪いな」のあとで、駅まで、会話が少なかった、という事実だった。

会話が少ない、というのを、数値化することは、できる。発話の回数、発話の長さ、笑い声の頻度。けれど、数値化したところで、それを、どう、扱えばいいか、分からなかった。

分からないものを、抱えたまま、宿題を、開いた。x の値は、いつも、ひとつ、出る。

x の値が、出ても、何かが、残る、ということが、最近、増え始めていた。

増え始めている、というのが、まだ、新しい感覚だった。

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【ジュンのトロッコ問題シリーズ予告】
本作はシリーズ第2話。ジュンは正確な割り勘で「合理的に公平」を実装した。誰も補助せず、誰も補助されず、各自が自分の選択に対応した負担を負った。経済学的には完璧な公平だった。しかし、ノブの「悪いな」が、いつもと、少し、違った気がした。客観的に「悪くない」のに、主観的に「悪い」を感じる、というのが、ジュンの中の新しい謎になる。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。