連休最終日の朝、実家の縁側。母(七十代後半、夫を見送ってからはひとり暮らし)と、東京から帰省してきた子(四十代後半)。午後の新幹線で東京に戻る。ラジオが小さく流れている。庭にツツジ。日が高くなる前の薄い光。
縁側に子が出てくる。母はもう起きていて、湯呑を二つ並べている。
子おはよう
母起きたか
子寝過ぎた
母ええよ、連休やし
子何時
母もう、八時
子あー
母お茶、淹れたで
子ありがと
ラジオの天気予報。「五月最初の月曜は、晴れのち曇り。最高気温二十三度」。
母何か食べる
子あとで
母ご飯、炊いてある
子知ってる
母食べな、新米
子あとで、絶対食べる
短い間。湯呑から湯気。庭の方から雀の声。
母帰り、何時の
子二時の新幹線
母早ぃな
子明日、仕事
母月曜、もう仕事か
子そう
母バスの時刻表、見たか
子見てない
母来週から、また減るんやって
子減る
母朝の便、八時のあと、十一時まで何もないで
子マジか
母マジや
短い間。
母田中さんとこ、息子さん、連休に来てたで
子あの、向かいの
母あの、向かいの
子何か
母家じまいの相談で
子あ、そう
母田中さん、もう、息子さんと住むことに決めたんやって、東京で
子そっか
母年が、年やしね
短い間。湯呑をひとくち。
子お母さんは
母うちは、まだ、ええ
子うん
母まだ、自分でできるうちは、ね
子うん
ラジオが切り替わる。「自動運転バスの実証実験が、本日から都内の一部路線で」。
母自動運転、ね
子うん
母あんなん、田舎には、いつ来るんやろか
子いつ来るんやろね
母来る前に、こっちは、なくなる
子なくなる、って
母バスや、バス会社が、なくなる
子あー
母なくなってから、自動運転で、復活する、っていう順番かもしれん
子一回、消えてから
母そう
短い間。縁側から、仏壇が見えている。父の写真。子、ちらりと見る。
子お父さん、元気そう
母写真は、いつも元気や
子そうやね
母お線香、あげていきな
子あげる、もうすぐ
母「もうすぐ」が、長いんやから、あんたは
二人、軽く笑う。
時計の音。子、立ち上がる気配。
子そろそろ、お風呂入って、出る
母持ってくもん、まとめてあるで
子えっ、何
母、立ち上がって台所のほうへ消える。袋の擦れる音。戻ってくる。
母お米
子いいって、東京で買えるって
母東京の米、高いやろ
子まあ
母持ってきな
子重いから
母重くない
子重いって
母五キロやで、重くない
子いや、重い
短い間。袋がもう一つ出てくる。
母あと、菜っ葉
子そんなに
母菜っ葉は、軽い
子……
母持ってきな
子……分かった
玄関先。子、靴を履く。母、立っている。
母駅、送ろか
子いいよ、ええよ
母バス、十一時まで来ぃへんけど
子一本前のバスで行く
母そうか
子そうか
短い間。
母次、いつ来れる
子お盆、たぶん
母お盆、ね
子お盆
母それまで、元気でな
子お母さんも
短い間。
母ええ加減、行きな
子行きます
ドアが開く。閉まる。子が玄関先で振り返ると、母は窓越しに小さく手を振っている。子も小さく、手を上げ返す。バス停まで歩く。米と菜っ葉の袋が、肩に重い。ラジオの音は、もう聞こえない。連休最終日の朝が、もうすぐ昼になる。
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