ナカムラタクミ(ポエマイゼーション:ソノダマリ)
「期待通りの品質でした!」「友人にもおすすめしたいです」「迅速な対応ありがとうございました」——Amazonで買い物をするとき、レビューを読まない人は少ない。レビューは「第三者の声」だ。広告ではない。だから信用できる。
……と思っている。
DXポエム#3で「導入事例」のポエム性を分析した。企業が選んだ成功事例は、第三者の声に見えて実は広告だった。あれは企業間(BtoB)の話だった。では消費者(BtoC)の世界ではどうか。Amazonレビューという戦場がある。
ポエマイゼーションには6つの操作がある。補填、翻訳、蒸発、消去、変装、増幅。マンションポエムもDXポエムも高校パンフも、これらの操作で事実をポエムに変換していた。
しかしそれらには共通点がある。読み手はそれがポエムだとわかっている。マンションのチラシはチラシだ。SaaSのランディングページはランディングページだ。高校パンフレットはパンフレットだ。読む前から「これは広告だ」とわかっている。だからポエムが入っていても、まあそういうものだろう、と構える。
ところがレビューは違う。
ステルスポエマイゼーション(stealth poemization)
ポエマイゼーションされたテキストが、「広告ではないもの」——レビュー、口コミ、体験談、SNS投稿——の形式で流通し、読み手がポエムと気づかないまま受容する現象。
ステルスマーケティング(ステマ)という言葉がある。広告であることを隠した広告。ステルスポエマイゼーションはその亜種だが、ステマよりタチが悪い。ステマは「企業が金を払って書かせた」から問題になる。しかしステルスポエマイゼーションでは、書いている本人が自分のテキストがポエムだと気づいていない場合がある。
Amazonのサクラレビュー(やらせレビュー)は、日本では「サクラチェッカー」のようなツールで検出できることが知られている。サクラレビューには文法がある。
サクラレビューの5つのパターン
ポエマイゼーションの6操作で分類すると、サクラレビューは補填と変装の合わせ技だ。中身がないから「大満足」で補填する。商品のことを語れないから物流の話に変装する。マンションポエムが「立地が不便だから"閑静"で変装する」のと同じ構造が、レビュー欄で再現されている。
面白いのは、★5レビューだけでなく★1レビューにもポエム文法があることだ。ただし文法が違う。
| ★5レビュー | ★1レビュー | |
|---|---|---|
| 主語 | 「この商品は」(商品が主役) | 「私は」(自分の被害が主役) |
| 時制 | 現在形・未来形(「おすすめしたい」) | 過去形(「壊れた」「届かなかった」) |
| 具体性 | 低い(「いい感じ」「コスパ最高」) | 高い(「3日で壊れた」「写真と違う」) |
| 感情 | 穏やか(「満足」「おすすめ」) | 激烈(「最悪」「詐欺」「二度と買わない」) |
| ポエム操作 | 補填+変装 | 増幅+消去(自分の非を消去) |
★5はポエマイゼーションの「補填」が効いている。中身がないから言葉で埋める。一方、★1はポエマイゼーションの「増幅」が効いている。怒りが言葉を増幅させる。「少し不便だった」が「最悪」になり、「期待と違った」が「詐欺」になる。
興味深いのは具体性の非対称だ。★5は具体性が低く、★1は具体性が高い。怒っている人は「何が」「いつ」「どうなった」を詳細に書く。満足している人は「いい感じです」で終わる。具体性が高いレビューほど信頼できるという経験則は、この非対称性から来ている。
Amazonには「参考になった」ボタンがある。多くの人が「参考になった」と押したレビューが上に表示される。民主主義的で公正に見える。
しかしここにもポエマイゼーションがある。
「参考になった」の3つのバイアス
「参考になった」ボタンは、ポエム的なレビューを上位に押し上げるフィルターとして機能している。具体的で冷静なレビューよりも、物語性のあるレビュー、感情的なレビュー、簡潔なレビューのほうが「参考になった」を集めやすい。結果、ポエム的なレビューが「最も参考になったレビュー」として表示される。
これは誰の悪意でもない。プラットフォームの設計が、ポエマイゼーションを構造的に増幅している。
ウェブの仕事を長くやっていると、テキストの「匂い」がわかるようになる。サクラレビューには独特の匂いがある。
サクラレビュー判定チェックリスト
サクラチェッカー等の外部ツールを使うのも手だが、上の5つを意識するだけでかなりの精度でフィルタリングできる。要は「具体性を要求する」ということだ。ポエマイゼーションへの対抗手段は、レビューの世界でも同じ。
ここまでサクラレビューの話をしてきた。しかし本当に面白いのは、本物のレビューもポエムになるという事実だ。
「この掃除機で人生が変わりました」——掃除機で人生は変わらない。しかし書いた本人はサクラではない。本当に満足して、本当にそう思って書いている。
「このイヤホンに出会えてよかった」——イヤホンに「出会う」とは。しかし書いた本人は真剣だ。
消費者は、購入した商品を「良い買い物だった」と思いたい。その心理が、レビューを無意識にポエマイゼーションする。サクラが書くポエムと、満足した消費者が書くポエムは、テキストだけでは区別できない。
これがステルスポエマイゼーションの本質だ。悪意のあるサクラだけが問題なのではない。善意の消費者も、自分のレビューを無意識にポエマイゼーションしている。「購入後の認知的不協和の解消」と心理学では呼ぶ。高い買い物をしたあと、「正しい判断だった」と自分を説得するために、レビューが饒舌になる。
DXポエム#3の導入事例で、企業の担当者が「導入してよかった」と語るのと同じ構造。担当者は嘘をついていない。しかし「導入を決めた自分の判断」を肯定するために、成果を——無意識に——ポエマイゼーションしている。
ポエマイゼーションの6操作が、レビューの世界でどう現れるか。
| 操作 | レビューでの現れ方 | 具体例 |
|---|---|---|
| 補填 | 中身がない絶賛で埋める | 「コスパ最高」「大満足」「期待通り」 |
| 翻訳 | 体験が「おすすめ」に翻訳される | 複雑な使用感→「いい感じです」 |
| 蒸発 | 具体的な使用条件が消える | 「音質最高」(何と比べて? 何のジャンルで?) |
| 消去 | 不満点を書かない | ★5レビューにデメリットが一切ない |
| 変装 | 商品評価を物流評価にすり替え | 「梱包が丁寧でした」「迅速な発送」 |
| 増幅 | 感情が表現を過剰にする | 「人生が変わった」「神商品」「出会えてよかった」 |
6操作がすべて揃っている。レビュー欄は、ポエマイゼーションの全操作が同時に稼働する戦場だ。しかもマンションのチラシやSaaSのランディングページと違い、書き手が無数にいる。プロのコピーライターではなく、一般の消費者が、無意識にポエムを量産している。
高校パンフ#6の「15歳のルール」、DXポエム#6の「決裁者のルール」に続いて、消費者のルール。
| 15歳のルール | 決裁者のルール | 消費者のルール | |
|---|---|---|---|
| 1 | 書いてないものは何か | 載っていない企業を想像しろ | ★3を読め |
| 2 | 写真は一番いい瞬間 | トライアルで内見しろ | レビュアーの履歴を見ろ |
| 3 | 同じ言葉が何校にもあったら暗号 | カタカナを日本語に置き換えろ | 具体性があるか問え |
消費者のための3つのルール
根っこは全部同じだ。ポエマイゼーションへの対抗手段は「具体性を要求すること」。高校パンフでもSaaSでもAmazonレビューでも、ポエムに対抗する武器は変わらない。
マンションポエムはプロのコピーライターが書く。DXポエムはマーケターが書く。高校パンフは広報担当者が書く。しかしレビューポエムは、私たちが書く。
Amazonで「この商品、よかったな」と思ったとき、レビュー欄に「大満足です!おすすめ!」と書いたことはないか。それはポエムだ。自分では気づいていないが、ポエマイゼーションの補填操作を実行している。
サクラレビューを見抜くことは大事だ。しかしそれ以上に大事なのは、自分自身がポエマーになっていることに気づくことだ。
レビューを書くとき、自分に問え。
「これはデータか、ポエムか」。
その問いが、ステルスポエマイゼーションへの唯一の対抗手段だ。
ソノダがポエマイゼーションで書いた結論と同じだ。ポエムとデータを区別すること。広告だけでなく、レビュー欄でも、SNSでも、自分の書いたテキストの中にも——ポエマイゼーションは、どこにでもいる。