ソノダマリ(高校パンフレット事情:カワセトモコ)
6回にわたって高校パンフレットのポエムを分析してきた。偏差値別の文法(#2)、15歳の読解力(#3)、写真の暗号(#4)、国際比較(#5)。最終回はこれまでの分析を、15歳が使える道具に変えたい。
カワセに最後の質問をした。「もし15歳の自分にパンフの読み方を教えるとしたら、何を教える?」
カワセはしばらく考えて、こう答えた。「全部は無理。でも3つだけなら」
#3でカワセが進路面談で使っていた問い。「このパンフ、何が書いてある?」「じゃあ、何が書いてない?」
パンフレットは広告だ。広告は長所を語る。短所は語らない。だから、書いてあることだけが全部だと思ってはいけない。
やってみよう
パンフレットを開いて、以下の項目が書いてあるか確認してみよう。
書いてないものがあったら、それは弱い部分かもしれない。「かもしれない」であって「必ずそう」ではない。確認するために、説明会で質問してみよう。
これはマンションポエムの「負の空間」(S1#13)であり、匂わせ暗号の「書いてないものが弱点」(暗号#4)と同じ原理だ。大人が不動産広告で使う読解力を、15歳用に翻訳しただけ。
#4のカワセの言葉を繰り返す。
パンフの写真は「一番いい日の一番いい瞬間」。
あなたが3年間過ごすのは「普通の日の普通の瞬間」。
広角レンズで広く撮られた教室。新品の制服を着たモデルのような生徒。晴天の桜と青空。パンフレットの写真は、マンションのモデルルームと同じだ。最高の状態を演出している。
やってみよう
説明会に行ったら、パンフに載っている場所と載っていない場所の両方を見てこよう。
#1で見た光景を思い出してほしい。「一人ひとりが輝く」「夢を叶える場所」「可能性は、無限大」——どの学校のパンフレットかわからなくなった。
同じ言葉が何十校にも使われているなら、その言葉に固有の意味はない。「一人ひとりが輝く」はA校の特徴ではなく、「特徴を書けないときの定型句」かもしれない。
やってみよう:3校比較法
残ったものが、その学校の本当の特徴に近い。具体的な数字、具体的なプログラム名、具体的な取り組み。抽象語ではなく、具体語で語られている部分。
これは不動産広告でも同じだ。「上質がそびえる」はどのマンションにも使える。しかし「隈研吾設計」「免震構造」「全戸南向き」は具体的事実であり、その物件だけのものだ。具体的であるほど、信用できる。
#2で何度も書いた。本当に面倒見がいい学校もある。本当に一人ひとりを大切にしている学校もある。笑顔の写真が演出ではなく、本物の笑顔である学校もある。
カワセ:「私がこのシリーズで一番伝えたかったのは、実はこれなの。暗号を見抜く力は、すべてを疑う力じゃない。『ここは確認したほうがいいかも』と気づく力。疑うんじゃなくて、確かめに行く力」
パンフレットは入口だ。入口を読み解くのは大事。しかし入口の向こうにある学校は、実際に足を運ばなければわからない。
「パンフを読む力は、パンフを置いて学校を見に行く力でもある。最後に信じるのは、自分の目で見た普通の日の学校よ」
#3でこう書いた。「書いてないものは何か」と問う力は一生使える、と。
15歳で高校のパンフレットを読む。18歳で大学のパンフレットを読む(S2#5)。22歳で求人広告を読む(S2#7)。30歳でマンションのチラシを読む(S1#1)。35歳で結婚式場のカタログを読む(S2#6)。
どの場面でも、同じ3つのルールが使える。
1. 書いてないものは何か。
2. 写真は一番いい瞬間。
3. 同じ言葉が並んだら、それは定型句。
マンションポエムの世界(全22回)から始まった旅は、続編(全10回)で6つのジャンルに広がり、匂わせ暗号(全6回)で実践的な解読術になり、高校パンフレット(全6回)で15歳に手渡す道具になった。
大人の遊びが、子供のための道具になった。
それが、マンションポエムから始まったこの長い旅の、いちばん嬉しい到達点だ。