三限のあと、移動教室。理科室から教室に戻る、廊下、四分。スリッパの底が、リノリウムに、こす、こす、と当たる。
左にミナ、右にジュリ、後ろにリオ。
「お腹、空いてきた」とジュリ。
「四限のあと、お弁当」
「あと、五十分」
「五十分、長い」
ミナがお腹を、ちょっと押さえた。
「ジュリ、お腹の音、鳴ってない?」
「鳴ってる」
ジュリは笑った。
「今日のお弁当、なに?」とジュリがミナに聞いた。
「卵焼きと、ウインナーと、昨日の餃子」
「餃子!」
「百個包んだ、余り。お弁当に入れるの、定番」
「百個、何日で食べきる?」とリオ。
「だいたい、三日。お弁当が、一日六個ずつくらい」
「家族の、お弁当、みんな餃子?」
「父が三個、母が三個、わたしが、五個」
「妹は?」とリオ。
「妹は、卵焼きが好きだから、卵焼き多め」
「いいねー」とリオ。
「ジュリは?」
「自分で作る、最近」
「えー、すごい」
「すごいこと、ない。冷凍食品を、詰めるだけ」
「それ、作るって言うんだ?」とミナが笑った。
「作る、って、言う。詰めるのも、作業だから」
「あー、作業」
「冷凍の唐揚げ、ブロッコリー、卵焼き、それと、ご飯」
「ご飯は、自分で炊くの?」とリオ。
「夜、母が炊いてる、それを、朝、入れる」
「あー、それ、作るかな?」
「作る、って言ってる」
ジュリは笑った。
「リオは?」
「父が作る日、たまに」
「父?」
「うん。母が忙しい日、父が、パンと、ハムと、チーズだけ、詰める」
「シンプル」
「デンマーク式、らしい」
「らしい?」とジュリ。
「父が、らしい、って言うだけ。本当に、デンマークでそうなのかは、知らない」
リオも笑った。
「ハナは?」
「いつもの」
「いつもの、って?」
「中身、考えたことない」
「考えてない」とジュリが笑った。
「母が、毎日、作ってくれてる。中身は、たぶん、毎日違う、けど、ふたを開けるとき、あんまり、見てない」
「見てないんだ?」
「見てない。食べる、食べる、で、終わる」
「贅沢」とミナ。
「贅沢、なのかな」
ちょっと、考えた。
スリッパの音が、まだ続いている。
教室の戸が、もうすぐそこ。
「お弁当、楽しみ」とミナ。
「楽しみ」とジュリ。
リオも頷いた。
戸の前で、ふっと、四つのお弁当が、見えた。ミナの家の、餃子三個ずつ並んだ家族のお弁当。ジュリの、冷凍食品の上で湯気の立つご飯。リオの、父のパンとハム。わたしの、見ていない、いつもの。
教室の戸が開いた。それぞれ、別の席に、散っていった。
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本作は山田花・移動教室の雑談シリーズ #5 第一稿。三限のあと、理科室から教室に戻る廊下で四分、4人(花・ミナ・ジュリ・リオ、リン抜き)でお弁当の中身の話。ミナは「百個包んだ餃子の余り」(家族で三日で食べきる、妹は卵焼き多め)、ジュリは「冷凍食品を詰めるだけ、作るって言ってる」、リオは「父が作る日、パンとハムとチーズ、デンマーク式らしい」、花は「中身、見てない、食べる食べるで終わる」(ミナの「贅沢」、花の「贅沢、なのかな」)。花のシリアス系(花のノート)と同一人物。