コンビニのおにぎりの限界効用(v2)
ジュンのことばのメモ #1・書き直し

高校二年、二組、森田。数学研究会のあと、駅前のコンビニに寄った。夕方の六時を、少し過ぎていた。

おにぎりの棚の前に立った。鮭が、特売で百二十円。隣に梅、その隣にツナマヨ。値札の下に、税込の小さな数字が並んでいた。

鮭か、梅か

鮭にするか、梅にするか、で、しばらく止まった。空腹は、たぶん、半分くらい。一個で足りるかどうかは、食べてみるまで分からない。一個で買って、足りなければ、家に何かあるはずだった。

鮭を、かごに入れた。入れてから、もう一度、棚を見て、梅も、入れた。二個になった。

二個で多いかどうかは、二個目を食べる頃に決まるはずだった。決まる前に、レジに、歩いた。

レジで

レジは、いつものお姉さんだった。バーコードが鳴って、二百六十円。レシートを受け取った。

「ありがとうございました」

「お疲れさまです」

と、口が、動いた。動いてから、なぜそう返したのか、分からなかった。レジの客が「お疲れさまです」と返すのは、たぶん、ふつうではない。

お姉さんは、こちらを見て、ふっと、笑った。笑ってから、「いってらっしゃい」と、言った。

「いってらっしゃい」のほうが、こちらの「お疲れさまです」より、二歩、先にいた。お姉さんは、「いま帰る」をつかまえずに、「これから先」を、こちらに、渡してきた。

お疲れさまです、を、自分は、レジの場で、出してしまった。お姉さんは、出された四音を、別の四音で、置き換えて、こちらに、戻した。戻されたものを、何と呼べばいいのかは、分からなかった。

袋の音

自動ドアを出て、駅までの道を歩き始めた。袋のなかで、おにぎりが、二つ、軽くぶつかる音がした。

歩きながら、一個目の鮭を、開けた。フィルムを、線の通りに、引いた。今日は、きれいに剥がれた。

一口目は、空腹を、半分くらい、埋めた。これは、想像していたぐらいの感じだった。

二口目で、味が、薄かった。一口目より、薄い。これも、たぶん、こうなるんだろう、と、棚の前で、半分、思っていた。思っていた通りに、起きた。

けれど、三口目で、鮭の脂が、舌の奥のほうに、強く来た。これは、棚の前では、想像していなかった。想像していなかったぶん、味が、こちらを、押した。

押された、ということは、棚の前で、すでに、半分は食べていたのに、まだ食べきっていなかった、ということだった。半分は計算で食べて、半分は口で食べていた。半分と半分の境目が、舌の奥のほうで、ずれた。

家で、二個目

家に着いて、自分の部屋で、梅を、開けた。

梅の酸が、鮭の脂のあとに来た。鮭のあとの梅は、合っていた。合っているのは、たぶん、棚の前で、半分、知っていた。

最後の一口で、梅の種を、口から、出した。種を、ティッシュに包んで、机の端に置いた。

包んでから、しばらく、机の木目を、見ていた。包んだティッシュの白が、机の木目の上で、ぽつんと、置かれていた。

二個食べたあと、空腹が、ちょうど、消えていた。ちょうど、というのが、どのくらいの幅なのかは、分からなかった。鮭一個では、たぶん、足りなかった。三個では、たぶん、多かった。二個で、消えた。消えた、ということ以上のことは、書けなかった。

階段の下から

階段の下から、母の声がした。

「ジュン、ご飯、いる?」

「いま、おにぎり食べたから、いい」

「あー、はいはい」

母が、台所のほうに、戻っていく音がした。何かを、しまう音、冷蔵庫を、閉める音。それから、もう一度、階段の下に、来た。

「お味噌汁だけ、置いとくよ」

「うん」

「ジュン、おにぎりの日って、お味噌汁、ほしくなるでしょ」

頷いた。頷いた、というのは、こっちの動作で、母には、見えなかった。

「うん」と、声で、返した。

母は、何も、答えずに、台所に、戻った。

母の言った「おにぎりの日って、お味噌汁、ほしくなる」は、たぶん、こちらが、自分で、気づくよりも、先に、知られていた。気づくよりも、先に、知っているもの、というのが、棚の前の計算の、外側に、置かれていた。

外側に、置かれていたものは、こちらの計算には、入っていなかった。入っていなかったまま、味噌汁は、台所で、温まっていた。

そのまま

レシートを、見た。鮭、百二十円。梅、百四十円。合計、二百六十円。

合計の数字は、ひとつだった。ひとつの数字の外に、お姉さんの「いってらっしゃい」と、母の「お味噌汁、ほしくなるでしょ」が、置かれていた。置かれていることに、こちらは、気づいた。気づいた、ということは、置いた人ではなく、置かれた人、ということだった。

置かれた人は、置いた人に、何かを、返さないといけない、のかもしれない。返し方は、まだ、分からない。

梅の種を包んだティッシュを、ゴミ箱に、捨てた。袋を、たたんだ。たたみかけたところで、お味噌汁の匂いが、階段の下から、上がってきた。

たたむのを、やめて、階段を、下りた。

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本作はジュンのシリーズ番外編「ジュンのことばのメモ」第一作の書き直し版(v2)。v1の6種類のおにぎり効用テーブル、限界効用逓減のアスキー図、「事前効用」という命名、結末の「街灯がひとつ灯った」をすべて撤去。代わりに、レジのお姉さんの「いってらっしゃい」と、母の「おにぎりの日って、お味噌汁、ほしくなるでしょ」という、ジュンの外から来た二つの言葉に、観察の重心を移した。「合計の数字の外側に書かれていないもの」を、ジュン自身が命名するのではなく、他者がすでに置いていた、という形に組み替えてある。結尾は、味噌汁の匂いに引かれて階段を下りる動作の途中で止める。書き手は締めない。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。