ナカムラタクミ(ポエマイゼーション:ソノダマリ)
クラウドファンディングのプロジェクトページを開いたことがあるだろうか。マクアケ、キャンプファイヤー、キックスターター。どのプラットフォームでもいい。3つ開けば、あることに気づく。
全部ポエムだ。
「まだ誰も見たことのない○○を作りたい」「このプロジェクトに込めた想い」「あなたの支援で世界が変わる」——DXポエムの解剖学(全6回)で分析した、SaaS LPのバズワードの嵐。あれの個人版が、ここにある。
DXポエム#2で、バズワード偏差値表を作った。企業規模によるポエムの文法のちがい。ティア1(GAFAM)はポエムが要らない。ティア2(上場SaaS)はデータで勝負する。ティア3(中堅SaaS)がポエムのピーク。そしてティア4——初期スタートアップ。
ティア4のコピーは「世界を変える」「イノベーションを起こす」「まだ誰も解決していない課題」。
プロダクトが未完成だから、ビジョンで売る。
——DXポエム#2
クラウドファンディングのプロジェクトページは、このティア4のポエムをさらに個人レベルに落とし込んだものだ。スタートアップは投資家にピッチする。クラファンの起案者は、一般の人にピッチする。聞き手がプロの投資家から素人に変わるぶん、ポエムの濃度はさらに上がる。
| スタートアップ(ティア4) | クラファン | |
|---|---|---|
| 聞き手 | ベンチャーキャピタル | 一般の支援者 |
| プロダクト | 未完成(ベータ版) | 未完成(コンセプト段階もある) |
| 売るもの | ビジョンと成長曲線 | ビジョンと「想い」 |
| ポエム濃度 | 高い | 最高 |
| 代表コピー | 「世界を変える」 | 「あなたの支援で世界が変わる」 |
ちがいに気づいただろうか。スタートアップは「世界を変える」——主語は自分。クラファンは「あなたの支援で世界が変わる」——主語は支援者だ。この一語のちがいが、クラファンポエムの本質を映している。
マクアケとキャンプファイヤーのプロジェクトページを30個開いて、頻出するフレーズを数えてみた。カテゴリはバラバラにした。ガジェット、フード、アート、ファッション、ソーシャルグッド。
クラファン三大ポエム
ソノダマリならこう分析するだろう。1番目は補填。プロダクトの実績がないから、物語で埋める。2番目は消去。類似品の存在を消す。3番目は増幅。3,000円の支援を「世界を変える行為」に格上げする。
ポエマイゼーションの操作が3つ同時に動いている。マンションポエムよりも濃い。なぜか。プロダクトが存在しないからだ。マンションは少なくとも建つ(多くの場合)。クラファンのプロダクトは、まだない。ないものを売るとき、ポエムは最大出力になる。
クラファンには「リターン」がある。支援金額に対するお返し。このリターンの書き方に、面白いパターンがある。
リターンのポエム偏差値表
| 金額 | リターン内容 | ポエム濃度 |
|---|---|---|
| 1,000円 | お礼のメール | ★★★★★ |
| 3,000円 | 限定ステッカー | ★★★★ |
| 5,000円 | プロジェクトレポート + 名前掲載 | ★★★★ |
| 10,000円 | 限定Tシャツ or トートバッグ | ★★★ |
| 30,000円 | プロダクト本体(早期割引) | ★★ |
| 50,000円〜 | プロダクト + オプション + 起案者との対談 | ★ |
リターンの価値とポエムの温度は反比例する。
1,000円の「お礼のメール」——これは純粋なポエムだ。メールに経済的価値はない。支援者が買っているのは「プロジェクトに参加した気持ち」。3,000円の「限定ステッカー」——ステッカーの原価は数十円だ。支援者が買っているのは「限定」という言葉。5,000円の「お名前掲載」——ウェブサイトの片隅に名前が載る。支援者が買っているのは「自分がこのプロジェクトの一部である」という物語。
逆に、50,000円になると「プロダクト本体 + アクセサリ一式 + 送料込み」と、急にスペックシートになる。ティア1のAWSのLPと同じだ。実体があるとき、ポエムは後退する。
ナカムラの法則:リターンにモノがないとき、コトバが増える。
マンションポエムの補填と同じ構造だ。設備が弱いほどコピーが饒舌になる(S1#9)。リターンにモノがないほど、「感謝」「想い」「限定」「特別」というポエムで埋める。
ここからはソノダマリの分析フレームワーク(ポエマイゼーション)を借りる。
SaaSのLPはポエムを一方的に浴びせる。企業が書き、読者が読む。マンションのチラシも同じ。デベロッパーが書き、購入者が読む。送り手と受け手がいる。ポエマイゼーションは一方向だ。
しかしクラファンは違う。
コポエマイゼーション(co-poemization)
支援者と起案者が一緒にポエムを作り上げる共犯関係
起案者がポエムを書く。「まだ誰も見たことのない、世界を変えるプロダクトを作りたい」。支援者がそのポエムを支援という行為で承認する。「このプロジェクトを応援しています!」というコメントを書く。そのコメント自体がポエムになる。起案者はアップデートで「皆さまのおかげで目標達成!」と書く。支援者は「参加してよかった!」と返す。
ポエムが反射し合っている。キャッチボールだ。
| 広告形態 | ポエムの方向 | 受け手の役割 |
|---|---|---|
| マンションチラシ | 一方向 | 読むだけ |
| SaaS LP | 一方向 | 読むだけ |
| 高校パンフレット | 一方向 | 読むだけ |
| クラファン | 双方向 | ポエムの共著者になる |
これが、クラファンポエムが他のどの広告ポエムよりも強力な理由だ。マンションのチラシを読んで「私もこのポエムの一部です!」と思う人はいない。しかしクラファンの支援者は本気でそう思っている。支援者は読者ではなく、共著者になる。
ソノダが名づけた「ポエマイゼーション」の6つの操作(補填、翻訳、蒸発、消去、変装、増幅)に加えて、クラファンは7番目の操作を持っている。
7番目の操作:共犯(きょうはん)
受け手がポエムの生産に参加する。支援、コメント、シェアという行為が、ポエムを増幅し再生産する。ポエマイゼーションが送り手と受け手の共同作業——コポエマイゼーション——になる。
DXポエム#1で書いた。SaaSのLPは機能を説明しているように見えて、実は印象を売っている。「アジャイルでスケーラブル」と書かれているが、具体的に何がアジャイルなのかはわからない。印象だけが残る。
クラファンはさらにその先を行く。
マンションポエム:場所を売るふりをしてステータスを売る
SaaS LP:機能を売るふりをして印象を売る
クラファン:製品を売るふりをして物語を売る
クラファンの支援者に聞いてみてほしい。「なぜそのプロジェクトを支援したのか」。多くの場合、返ってくる答えは製品のスペックではない。「起案者の想いに共感した」「このプロジェクトの考え方が好きだった」「応援したいと思った」——共感だ。
共感。これがクラファンポエムのキーワードだ。マンションポエムは憧れを売る。SaaSポエムは安心を売る(「導入企業40万社」)。クラファンポエムは共感を売る。そして共感は、ポエムとの相性が最高にいい。なぜなら共感は主観だからだ。検証できない。反証できない。「共感しました」に対して「いやそれは間違いだ」とは言えない。
検証不可能なものを売るとき、ポエムは無敵になる。
クラファンには「ストレッチゴール」という仕組みがある。最初の目標金額を達成した後、「次の目標」を設定する。200%達成で新カラー追加。300%達成で全員にオマケ。500%達成で——
このストレッチゴールのコピーが、本編よりさらにポエムなのだ。
「皆さまの熱い想いが、私たちの想像を超えました」
「ここまで来たら、もっと最高のものを届けたい」
「500%達成の感謝を込めて、スペシャルリターンを追加します」
冷静に読んでほしい。ストレッチゴールは追加販売だ。最初の目標を達成して資金に余裕ができたので、追加のインセンティブを出して支援をさらに募る。ビジネスとしてはごく合理的な行動だ。
しかしポエムの衣をまとうと、追加販売が「感謝」になる。「もっと集めたい」が「もっと届けたい」に変装する。ストレッチゴールは、ポエマイゼーションの変装操作のライブパフォーマンスだ。
DXポエム#6で決裁者のためのルールを書いた。高校パンフ#6で15歳のためのルールを書いた。クラファンにも3つのルールがある。構造は同じだ。
クラファン支援者のための3つのルール
| 15歳のルール (高校パンフ#6) |
決裁者のルール (DXポエム#6) |
支援者のルール (本稿) |
|
|---|---|---|---|
| 1 | 書いてないものは何か | 載っていない企業を想像しろ | 「想い」を削除して残るものを見ろ |
| 2 | 写真は一番いい瞬間 | トライアルで内見しろ | リターンの原価を想像しろ |
| 3 | 同じ言葉が何校にもあったら暗号 | カタカナを日本語に置き換えろ | 「まだ誰も」を検索しろ |
3つのシリーズで3回、同じ構造のルールが出てきた。根っこはいつも同じだ。具体性を要求すること(ポエマイゼーション)。ポエムに流されず、事実を見ること。
いや、悪くない。
ここが大事なところだ。クラファンの支援者の多くは、プロダクトが欲しくて支援しているのではない。「このプロジェクトに参加したい」「この人を応援したい」「自分も世界を変える側にいたい」——そういう気持ちで支援している。それ自体は美しいことだ。
問題は、いつもと同じだ。ポエムを事実と混同すること。
「あなたの支援で世界が変わる」を読んで、本当に世界が変わると思うこと。「まだ誰も見たことのない」を読んで、本当に世界初だと思うこと。「想いに共感した」を根拠に、仕様を確認せずに5万円を出すこと。
クラファンのポエムに支援するなら、ポエムに支援していると自覚して支援しよう。「この人の物語が好きだから1万円出す」——それは立派な消費行動だ。映画のチケットと同じだ。しかし「この製品が届くから1万円出す」なら、仕様を読め。スケジュールを疑え。起案者の過去のプロジェクトを確認しろ。
ポエムに支援するなら、ポエムの値段で。
プロダクトに支援するなら、プロダクトの目で。
コポエマイゼーション——支援者と起案者の共犯関係——は、クラファンの最大の魅力であり、最大のリスクだ。共犯者は、共犯であることを自覚しているとき、いちばん楽しい。