※個人の感想です
——健康食品広告のポエマイゼーション

イシカワケンタロウ(ポエマイゼーション:ソノダマリ)

健康管理が仕事みたいなものだ。サプリの成分表を読み、食品添加物を確認し、テレビ通販の「驚きの声」に眉をひそめる。それが日常。

ソノダマリのポエマイゼーションを読んで、言語化できなかった違和感がすべてつながった。健康食品の広告は、ポエマイゼーションの教科書だ。マンションが「上質がそびえる」なら、サプリは「※個人の感想です」。制度の檻がポエムを生む構造は、業界が違っても同じだった。

薬機法という檻——「効く」と言えない世界

マンションポエムは不動産の表示規約が生んだ(S1#1)。「最高」「完璧」「日本一」——言えないから、詠う。

健康食品も同じ構造だ。薬機法(旧薬事法)は、医薬品でないものが「効く」「治る」「予防する」と言うことを禁じている。食品が医薬品的な効能効果を標榜すれば違法になる。

ではどうするか。

「スッキリ実感!」「毎朝のハリが違う」「イキイキとした毎日へ」

何に効くとは言っていない。何が変わるとも言っていない。しかし聞いた人の頭の中では「便秘が治る」「肌が若返る」「元気になる」に変換される。言っていないのに伝わる。これがポエマイゼーションだ。

ソノダの6つの操作で言えば、変装蒸発の合わせ技。「便秘が改善する」という事実(未証明の)が「スッキリ」に変装し、「改善する」という因果関係が蒸発して、「実感」という主観だけが残る。

テレビ通販の劇場——体験談という名のポエム

深夜のテレビ通販を思い出してほしい。あの構成はいつも同じだ。

  1. 悩んでいる人が登場する(Before)
  2. 商品と出会う(転機)
  3. 笑顔になる(After)
  4. 画面の端に小さな文字が出る

※個人の感想であり、効果・効能を保証するものではありません
※個人差があります
※適切な運動と食事管理も行っています

SaaSの導入事例(DXポエム#3)にソノダが見出した構造と同じだ。Before→Afterの物語。選ばれた成功者の声。しかしSaaSの導入事例には打消し表示すらなかった。健康食品には「※個人の感想です」がある。

皮肉なことに、この打消し表示は広告をより信頼できるように見せる。「ちゃんと断ってるんだから、正直な会社だ」と。消費者庁の2017年調査では、打消し表示を「見た」と回答した消費者は全体の3割に満たなかった。見ていないのに「あるから安心」と感じる。打消し表示は免罪符として機能している。

ソノダに話したら、即座に言った。「それ、マンション広告の『※掲載の眺望写真は14階相当からの撮影です』と同じ構造だね。小さい字で正直であることが、大きい字の嘘を許す装置になっている」。

健康食品の暗号辞典——ソノダ式で解読する

ソノダの匂わせ暗号(全6回)は不動産広告の婉曲表現を解読した。同じ手法で健康食品の暗号を解読してみる。

暗号 匂わせている効能 ポエマイゼーション操作 実際の意味
スッキリ 便秘改善 変装+蒸発 何がスッキリするかは主観
ハリ しわ・たるみ改善 変装 何のハリか不明。心のハリかもしれない
イキイキ 若返り・元気 蒸発 定義不能。測定不能。反証不能
自然由来 安全・体に優しい 増幅 トリカブトもフグ毒も自然由来
○○配合 効果あり 消去 0.001mgでも「配合」。量が消去されている
実感 効果あり 蒸発 主観的感覚。客観的検証なし
医師も注目 医学的に有効 増幅 注目≠推奨。1人の医師でも「医師」
特許成分 高度な技術 増幅 特許=新規性。有効性の証明ではない
○○の力 効果が強い 補填 力とは何か。エビデンスなしで雰囲気を補填
毎日の習慣に 継続すれば効く 変装 「定期購入してほしい」の変装

不動産の「閑静な住宅街」は「不便」の変装だった(匂わせ暗号#1)。健康食品の「スッキリ実感」は「便秘が治るかもしれないし治らないかもしれない」の変装だ。変装の文法は同じ。領域が違うだけ

数字のポエム——「93%が満足」の裏側

健康食品広告には一見データに見えるものがある。

「満足度93%!」「リピート率89%!」「○○成分1000mg配合!」

数字があるから事実に見える。しかしこの数字は事実なのかポエムなのか。

数字のポエマイゼーション・チェックリスト

ソノダがDXポエム#3で書いた「業務時間50%削減」と同じだ。数字は事実の顔をしたポエムになりうる。ポエマイゼーションの操作で言えば消去——文脈(母集団、計測方法、比較対象)が消去され、数字だけが残る。

機能性表示食品——規制が生んだ「上品なポエム」

2015年、機能性表示食品制度が始まった。企業の自己責任で科学的根拠を届け出れば、機能性を表示できる。特定保健用食品(トクホ)より審査が緩い。

これで「効く」と言えるようになった——わけではない。

「本品にはイチョウ葉由来フラボノイド配糖体及びイチョウ葉由来テルペンラクトンが含まれます。イチョウ葉由来フラボノイド配糖体及びイチョウ葉由来テルペンラクトンは、中高年の方の、認知機能の一部である記憶力(言葉や図形などを覚え、思い出す能力)を維持することが報告されています。」

これは実在の機能性表示食品のパッケージから抜粋した典型的な文言だ(特定の製品を指すものではない)。読めたか。読めない。一般消費者に伝わる文章ではない。

だから店頭POPではこうなる。

「うっかり対策に!」

法律上の表示は難解で正確。広告は平易でポエム。この二重構造が機能性表示食品の特徴だ。ソノダのポエマイゼーションで言えば、届出表示→広告の変換過程で蒸発が起きている。「認知機能の一部である記憶力(言葉や図形などを覚え、思い出す能力)を維持する」から、科学的な限定が蒸発して「うっかり対策」になる。

マンションの重要事項説明書と広告チラシの関係に似ている。重説は正確だが読まない。チラシはポエムだが読む。正確さと伝達力は反比例する

規制がポエムを進化させる——ビフォーアフターの消滅

2017年、消費者庁が「打消し表示に関する実態調査報告書」を公表した。体験談広告に対する監視が厳しくなった。ビフォーアフター写真の使用にも制限がかかった。

すると何が起きたか。

ビフォーアフター写真が減った。代わりに「イメージ映像」が増えた。青い空、走る女性、朝日を浴びるシニア。商品と関係のない「健康そうな映像」。体験談は残ったが、「3か月で10kg」のような具体的な数字が減り、「毎朝が楽しみになりました」のような抽象表現が増えた。

規制が一つ加わると、ポエムは別の形で進化する。

ソノダがマンションポエムS1#10で書いた「マンションポエムの歴史」と同じ現象だ。バブル崩壊後、「億ション」が売れなくなると「都心回帰」のポエムが生まれた。規制が変わるとポエムが変わる。しかしポエマイゼーションそのものは消えない。形態が変わるだけだ。

ポエマイゼーションの6操作——健康食品はフルコース

ソノダのポエマイゼーションは6つの操作を定義した。健康食品広告は、6つすべてが同時に動いている稀有な領域だ。

操作 マンション 健康食品
補填 設備が弱いから「上質」で埋める エビデンスが弱いから「○○の力」で埋める
翻訳 英語→カタカナで文化変換 論文→広告で「研究で実証」→「注目の成分」に変換
蒸発 "Agile"→「アジャイル」で定義が蒸発 「記憶力を維持」→「うっかり対策」で条件が蒸発
消去 隣のビルを写真から消す 副作用を消す。効かなかった人を消す
変装 「不便」→「閑静」 「便秘が治るかも」→「スッキリ」
増幅 「プラウド」で高級感を増幅 「特許成分」「医師も注目」で権威を増幅

ソノダの対照表(ポエマイゼーション)では、マンションは「補填+消去」、SaaSは「蒸発+増幅」が主操作だった。健康食品は6つ全部が常時稼働している。薬機法という強い規制と、「健康になりたい」という強い欲望が、あらゆるポエマイゼーション技法を総動員させている。

「※」の記号学——打消し表示はどこにある

健康管理の仕事をしていると、打消し表示の位置が気になってしかたがない。

打消し表示の配置パターン

共通しているのは、打消し表示は「読ませない」ように配置されているということだ。法的には表示している。しかし認知的には表示していないに等しい。

ソノダの言葉を借りれば、これは消去の変種だ。情報を削除するのではなく、視認性を消去する。存在するが見えない。マンション広告で周辺環境の写真を「撮影角度で消す」のと同じ技術だ。

健康管理の現場から——「おかしくない?」の蓄積

日常で感じている「おかしさ」を、ポエマイゼーションの枠組みで整理する。

酵素ドリンク

「生きた酵素が届く!」——酵素はタンパク質だ。胃酸で変性する。「生きた」まま腸に届くためには胃酸を通過しなければならないが、そのメカニズムの説明はない。「生きた」は擬人化による増幅。科学的な限定条件の蒸発

水素水

「高濃度水素水で体の中からキレイに!」——水素は常温常圧で気体だ。ペットボトルを開けた瞬間に抜けていく。「高濃度」の定義は曖昧で、仮に溶存していても体内でどう作用するかのエビデンスは極めて限定的。「キレイ」は測定不能な変装

コラーゲンドリンク

「飲むコラーゲンでぷるぷる肌!」——経口摂取したコラーゲンはアミノ酸に分解される。分解されたアミノ酸が再びコラーゲンとして肌に届く保証はない。「ぷるぷる」はオノマトペによる補填。科学的因果関係の消去

デトックス

「体内の毒素をスッキリ排出!」——人体には肝臓と腎臓という優秀な解毒器官がある。健康な人の体に「溜まった毒素」とは何か。「デトックス」自体がポエマイゼーションの産物だ。恐怖を煽り(あなたの体には毒素が溜まっている)、救済を売る(このドリンクで排出できる)。補填の極致——存在しない問題を言葉で作り、言葉で解決する。

なぜ買ってしまうのか——ポエムの需要側

ここまで書いて、供給側(広告主)の技術ばかり分析してきた。しかしポエマイゼーションには需要側がある。なぜ人はポエムを信じたいのか

健康の不安は人間の根源的な恐怖だ。老化、病気、死。医療は万能ではなく、予防医学は地味で即効性がない。「バランスのいい食事と適度な運動」と言われても、それは退屈だ。

そこにサプリが現れる。「飲むだけで」「1日1粒で」「これ1本で」。簡単な解決策の提示。科学がまだ解明していない領域に、ポエムが入り込む。「効くかもしれない」——その「かもしれない」にお金を払っている。

ソノダの指摘

「マンションポエムも同じだよ。『上質がそびえる』を信じたいのは、そこに住む自分を上質だと思いたいから。サプリのポエムを信じたいのは、飲むだけで健康になる世界に住みたいから。ポエムの力は、読む人の欲望が半分作っている」(ポエマイゼーションより)

ポエマイゼーションは広告主だけの仕業ではない。消費者の欲望と、広告の技術が共犯関係にある。健康食品の場合、「健康になりたい」という切実な欲望がポエムの受容を加速させている。

健康食品広告の読み方——3つのルール

ソノダのシリーズは、毎回最終回で「読み方」を手渡してきた。高校パンフ#6の「15歳のための3つのルール」。DXポエム#6の「決裁者のための3つのルール」。

健康管理をしている立場から、3つのルールを提案する。

ルール1:主語を探せ

「スッキリ実感!」——誰が何がスッキリした?

「ハリが違う!」——何のハリ? 何と比べて違う?

「毎朝が変わる!」——何がどう変わる?

主語と目的語が省略されていたら、それはポエムだ。日本語は主語を省略できる言語だが、広告はそれを悪用している。

ルール2:打消し表示を先に読め

キャッチコピーを読む前に、「※」を探せ。

「※個人の感想です」「※効果を保証するものではありません」「※適切な運動と食事管理も行っています」

打消し表示にこそ真実がある。「適切な運動と食事管理も行っています」ということは、サプリだけの効果ではないということだ。先に※を読めば、キャッチコピーの印象に引きずられない。

ルール3:成分名で論文を検索しろ

気になるサプリがあったら、主要成分をPubMed(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)やGoogle Scholarで検索してみよう。

論文が見つからないなら、科学的根拠は弱い。論文があっても「マウスの実験で効果あり」は「人間に効く」ではない。広告の「研究で実証」は、何の研究で何が実証されたかを確認するまでポエムだ

3つのルール——分野を超える共通構造
15歳のルール
高校パンフ#6
決裁者のルール
DXポエム#6
健康のルール
(本稿)
1 書いてないものは何か 導入事例に載っていない企業を想像しろ 主語を探せ
2 写真は一番いい瞬間 LPはモデルルーム。トライアルで内見しろ 打消し表示を先に読め
3 同じ言葉が何校にもあったら暗号 カタカナを日本語に置き換えろ 成分名で論文を検索しろ

ルール1は共通している。書かれていないものを見ろ。省略された主語、載っていない企業、書いてない情報。ポエマイゼーションの「消去」に対抗する技術。

ルール3は領域固有だ。高校なら学校を見に行け。SaaSならトライアルしろ。健康食品なら論文を読め。それぞれの「実物」に当たる方法が違うが、ポエムの向こう側にある事実に手を伸ばせという構造は同じだ。

まとめ——「※個人の感想です」は正直だ

ソノダのポエマイゼーション理論に出会って、長年の違和感に名前がついた。健康食品広告の「おかしさ」は、広告主の悪意ではなく、構造的なものだった。薬機法が「効く」と言わせない。しかし売らなければならない。その間で言葉がポエムに変わる。

考えてみれば、「※個人の感想です」は正直な表示だ。効果を保証しないと明言している。問題は、その正直さが小さな文字に閉じ込められ、大きな文字のポエムが消費者の判断を支配していることだ。

ソノダがDXポエム#6の最後に書いた言葉を、健康食品に翻訳する。

医師はサプリ広告を笑える。でもマンションのポエムに騙されるかもしれない。
不動産屋はマンションポエムを笑える。でもサプリの「スッキリ実感」に騙されるかもしれない。
全員が、どこかの分野では15歳なんだ。

だから「読み方」を持つことに意味がある。主語を探すこと。打消し表示を先に読むこと。成分名で論文を検索すること。特別な専門知識はいらない。ポエムとデータを区別する、ただそれだけの筋肉

「※個人の感想です」——この小さな文字を読める人が一人でも増えれば、この記事を書いた意味がある。

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参考文献
このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。健康食品の表現は実在の傾向に基づく例示であり、特定の製品を指すものではありません。健康に関する判断は医療専門家にご相談ください。