おばあちゃんに、聞こう
アヤと、夕食後の相談——トロッコ問題シリーズ #4

小川アヤ、高校二年。月曜の夜、夕食後。両親が、お父さんの母(アヤから見たおばあちゃん)の介護のことを話している。アヤは、リビングで宿題をしながら、ダイニングの声を、聞いていた。

夕食後

月曜の夜、夕食を食べ終えて、私はリビングのテーブルで、数学の宿題を広げていた。お父さんとお母さんは、ダイニングのほうで、お茶を淹れていた。

最初は、いつもの夕食後の世間話だと思っていた。けれど、お父さんが「おばあちゃんのこと、なんだけどさ」と言いだしたあたりから、声のトーンが、少し、違った。

お父さんの母——私のおばあちゃん——は、岐阜の田舎で、ひとり暮らしをしている。今までは元気だった。けれど、半年前に、家の中で転んでから、最近、少し、弱っているらしい。

「やっぱり、家に来てもらうのが、いちばんだと思う」とお父さんは言った。

「気持ちは、分かるけど」とお母さんは言った。「現実的に、難しいよ、この家じゃ」

AホームとBホーム

お母さんが、紙を広げる音がした。

「Aホーム、月二十万。家から近い、毎週、行ける。空きが、来月から、ひとつ」

「Bホーム、月十二万。岐阜の、隣町。月一回くらいしか、行けない。空きは、いつでも」

「金額じゃないだろう」とお父さんは言った。

「金額じゃないけど、金額も、大事だよ」とお母さんは言った。

私は、宿題のページを、しばらく、見ていなかった。鉛筆を持ったまま、声だけを、追っていた。

電話の音がした。お父さんの携帯。たぶん、お父さんの弟の、私のおじさんからだった。

「うちは、見られないんだ」と、電話の向こうから、おじさんの声が、漏れていた。お父さんは、何度か、頷いていた。「分かった、分かった」と言って、電話を切った。

数で、並ぶもの

お父さんとお母さんが、しばらく、黙っていた。

私は、ペンを置いた。

声には、出さなかった。出さなかったけれど、頭の中で、いろんなものが、数で、並びはじめていた。

二十万と、十二万。毎週と、月一回。隣町と、家から近い。空きが来月と、いつでも。

数だけで決められない、と、お父さんは言っていた。けれど、数で並んでしまっているもの、を、数なしで決めるのは、難しい。

私は、先生の言葉を、思い出した。

「結果として、誰かに先に届き、誰かに後で届く」

おばあちゃんに、毎週の面会が、Aホームなら、先に届く。Bホームなら、後で届く。

お父さんに、おばあちゃんを近くで見守る安心が、Aホームなら、先に届く。Bホームなら、後で届く。

お母さんに、家計のゆとりが、Bホームなら、先に届く。Aホームなら、後で届く。

どれかを選ぶことは、ほかを、後にすること、だった。家族の中でも、それは、起きていた。

おばあちゃんに、聞こう

夜、お父さんが、リビングに来た。私の宿題を覗いて、「数学、進んでる?」と、笑った。私は、「あんまり」と答えた。

お父さんは、私の隣の椅子に、ゆっくり座った。

私は、ペンの先で、ノートの端を、軽くつついた。

「お父さん」

「うん」

「おばあちゃん、自分で、どう思ってるかな」

お父さんは、しばらく、何も言わなかった。

「うちに来るか、Aホームか、Bホームかって、おばあちゃんに、まだ、聞いてないよね」

お父さんは、私のほうを、見た。少し、戸惑った顔をしていた。

「そうだね」と、お父さんは、ゆっくり言った。「聞かないと、な」

「うん」

お父さんは、私の頭に、軽く手を置いた。それから、立ち上がって、お母さんのほうへ、ゆっくり歩いていった。

「お母さん、明日、おばあちゃんに、電話しよう」と、お父さんが言うのが、聞こえた。

お母さんが、何かを、答えた。声は、はっきりとは、聞き取れなかったけれど、頷いている、感じがした。

部屋で

夜、自分の部屋で、ベッドに寝そべって、天井を見ていた。

トロッコ問題には、五人と一人がいた。どちらも、声を発しない設定だった。「あなたが決めなさい」という設定だった。本人に聞く、という選択肢は、そもそも、なかった。

家族の話し合いには、本人がいた。本人がいるのに、本人に聞く前に、私たちが、決めようとしていた。

お父さんとお母さんが、悪いわけじゃない。お父さんとお母さんは、おばあちゃんを思って、案を、いくつか、並べた。並べることは、必要だった。並べなければ、話が、進まなかった。

ただ、並べたあとで、本人に聞く、というステップが、抜け落ちかけていた。

抜け落ちかけたところに、私は、声を、入れた。それは、たぶん、私が、できる、いちばん、小さな所作だった。

数で決める、と、本人に聞く、は、両立する。たぶん、両立しなければならない。並んだ数のなかから、本人が、選ぶ。本人が選べないとき、家族が、本人を思って、選ぶ。本人を思う、というその順番のなかに、本人に聞く、というステップが、入っているかどうか、で、たぶん、何かが、違う。

それは、トロッコ問題の答えとは、別のかたちの、答えなのかもしれない。

別のかたちの答え、というのが、現実の倫理なのかもしれない。

なのかもしれない、で、止まる。

止まるけれど、先週よりも、少しだけ、考える材料が、増えている。

納得しないまま、考え続ける。

と、先生は、最初に、言っていた。

明日、おばあちゃんに、電話がかかる。電話の向こうで、おばあちゃんが、何と言うかは、まだ、分からない。

分からないまま、明日が、来る。

天井には、まだ、何も書かれていない。

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パラレルシリーズ:サイドバック(同じ頃、二組のジュンはデータ分析で弟を救う)
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【トロッコ問題シリーズ予告】
本作はシリーズ第4話。アヤは家庭の介護議論で「本人に聞く」というステップが抜け落ちかけたところに、声を入れた。トロッコ問題と現実の決定的な違い——本人に聞く、という選択肢の有無——が浮かび上がる。次話以降、より大きなリソース配分(ニュース、災害、医療)が立ち上がる予定。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。