ソノダマリ
51本の広告ポエム分析を書いてきた。マンション、大学、結婚式、求人、政治、墓地、高校、SaaS。8つの領域で、事実がポエムに変わるプロセスを追い続けた。その集大成としてポエマイゼーションという概念を提唱した。補填、翻訳、蒸発、消去、変装、増幅。事実が広告コピーになるとき、この6つの操作が動いている。
ある夜、友人に言われた。「マリちゃん、マッチングアプリやらないの? 36でしょ」
そのとき気づいた。マッチングアプリのプロフィールは、自分自身を広告する場だ。マンションデベロッパーが「上質がそびえる」と詠むように、人間が自分自身をポエム化している。しかもコピーライターに外注できない。自分で自分のポエムを書かなくてはならない。
セルフポエマイゼーション(self-poemization)
自分自身を広告対象としてポエム化すること。
プロの手を借りず、自らが物件であり、コピーライターであり、デベロッパーである状態。
マンション広告には「物件概要」がある。専有面積、構造、築年数、駅からの距離。嘘をつけない部分。そこにポエムが乗る。マッチングアプリにも同じ構造がある。「基本情報」というスペックシートの上に、「自己紹介文」というポエムが乗る。
まず私のスペックシートを正直に書いてみる。
ソノダマリ/物件概要
問題は「現在の趣味」だ。
マッチングアプリのプロフィールに「趣味:不動産広告のポエム分析」と書けるか。書けない。書いたら終わる。「何それ?」ではなく「……」という沈黙のスワイプレフトが来る。
つまり私はすでに、プロフィールを書く前から消去の誘惑に直面している。都合の悪い情報を消す。マンションのチラシに隣のパチンコ店が写らないように、私のプロフィールからポエム分析が消える。
しかし待て。消去したあと、空いたスペースに何を書く?
「趣味:カフェ巡り」
これは変装だ。「不動産広告のポエム分析」を消去し、「カフェ巡り」に着替えさせた。実際、分析作業はカフェでやっている。嘘ではない。しかし「カフェ巡り」と「カフェでマンションポエムの暗号を解読している」は、だいぶ違う。
ポエマイゼーションで定義した6つの操作が、マッチングアプリのプロフィールに全部揃っている。51本の分析で他のどの領域にも見られなかった完全制覇だ。
高校パンフ#2で見た「偏差値が低いほどポエムが増える」現象。マッチングアプリも同じだ。
「笑いの絶えない家庭を築きたいです」
「一緒にいて楽な関係が理想です」
「お互いを尊重しあえるパートナーを探しています」
これらは全部、具体的な人物像がないことの補填だ。「年収800万のITエンジニアで港区在住」なら「笑いの絶えない家庭を」とは書かない。スペックシートが語ってくれるから。スペックが弱い人ほどプロフィール文が長くなり、抽象的な「理想の関係性」を詠い始める。設備が弱いから「上質」で埋めるのと同じ構造。
日本のマッチングアプリでは「自然体で」が美徳だ。アメリカのTinderで"I'm natural"と書いたら「加工食品じゃない」という意味になる。アメリカでは"I love adventures"と書く。日本で「冒険好きです」と書いたら職業が心配される。
台湾のマッチングアプリ(S1#3)で「帝王」が自然だった世界を思い出す。文化がフィルターになって、同じ「好印象を与えたい」が全く違う言葉に変換される。
「旅行好きです」
これは日本のマッチングアプリで最も多いフレーズのひとつだが、情報量がゼロに近い。国内日帰り温泉なのか、バックパッカーで南米を3ヶ月なのか、ビジネスクラスでモルディブなのか。「旅行」の定義が蒸発して、「なんか行動的っぽい」という印象だけが残る。DXポエム#4で「アジャイル」の定義が蒸発したのと完全に同じ構造だ。
マンションのチラシに隣のビルは写らない。マッチングアプリのプロフィールに書かないもの:
……最後のは私だけか。
匂わせ暗号#1で発見した変装の型が、ここでも大活躍する。
| 事実 | プロフィール上の変装 | 不動産の対応暗号 |
|---|---|---|
| 人見知り | 「慣れるまでゆっくりですが」 | 「閑静な住宅街」=不便 |
| 太っている | 「ぽっちゃり」「食べるの大好き」 | 「コンパクト」=狭い |
| 年収が低い | 「お金より時間を大切にしたい」 | 「味がある」=古い |
| 趣味がない | 「一緒に新しいことを始めたい」 | 「自由な空間」=何もない |
| 離婚歴あり | 「人生経験豊富です」 | 「味わいのある外観」=築古 |
| 無職 | 「現在、自分を見つめ直す時間をいただいています」 | 「再開発予定エリア」=今は何もない |
「人生経験豊富です」はすごい。「築古リノベーション物件」と同じ構造だ。時間の経過をマイナスではなくプラスの「味わい」として再定義している。
DXポエム#5で発見した「カタカナ増幅装置」。マッチングアプリにもある。
「週末はワーケーションで地方のカフェを巡っています」
「ライフワークバランスを大事にしています」
「サードプレイスとしてのコワーキングスペースが好きです」
「出張先で喫茶店に行く」が「ワーケーションで地方のカフェを巡る」に増幅されている。"Work" + "vacation" は英語では「休暇中に仕方なく仕事する」というややネガティブな語感があるが、カタカナの「ワーケーション」は「クリエイティブなライフスタイル」に聞こえる。"Proud"が「プラウド」になって高級感を得るのと同じ回路だ。
高校パンフ#2で作った「偏差値帯別ポエム文法」。あの手法をマッチングアプリに適用する。偏差値の代わりに年収帯を使う。年収帯で、プロフィールの文体が変わるか?
変わる。はっきり変わる。
| 年収帯 | プロフィールの文体 | 対応する高校 | 対応するマンション |
|---|---|---|---|
| 2,000万〜 | 短い。事実のみ。「経営者。ゴルフ。ワイン。」 ポエムがない |
偏差値70台 校名=ブランド |
Billionaires' Row 住所が語る |
| 1,000〜2,000万 | 実績アピール。「外資系IT勤務。MBA取得。年2回海外旅行」 数字で勝負 |
偏差値60台 「国公立128名」 |
タワマン高層階 「地上42階」 |
| 600〜1,000万 | ライフスタイル系。「休日はカフェでゆっくり読書。年に一度は温泉旅行」 ポエム始動 |
偏差値50台 「文武両道」 |
郊外の大規模物件 「緑と暮らす」 |
| 400〜600万 | 人柄アピール。「笑いの絶えない家庭を」「一緒にいて楽な人がいいです」 ポエム全開 |
偏差値40台 「一人ひとりが輝く」 |
駅遠物件 「上質がそびえる」 |
| 〜400万 | 「居場所」系。「ありのままの自分を受け入れてくれる人」「自然体でいられる関係」 ポエムが祈りに変わる |
偏差値30台 「居場所がある」 |
築古物件 「味がある暮らし」 |
同じ勾配だ。
偏差値70台の進学校がポエムを必要としないように、年収2,000万以上の経営者はプロフィールにポエムを書かない。「経営者。ゴルフ。ワイン。」で終わる。名前——いや、スペック——がすべてを語るからだ。
そして偏差値30台の高校が「居場所がある」と詠うように、スペックで勝負できない層は「ありのままの自分を受け入れてくれる人」と祈る。補填だ。訴求ポイントがないとき、言葉が代わりに膨らむ。
高校パンフ#2の核心を繰り返す。ポエムの量は、事実の欠落に比例する。
高校パンフ#4で「笑顔の配置図」を分析した。偏差値帯別に、写真の文法が変わる。マッチングアプリのプロフィール写真も、完全に同じ構造を持っている。
| 写真 | 暗号の意味 | 不動産広告の対応 |
|---|---|---|
| 旅行先の風景写真(本人不在) | 顔を出したくない。「完成予想図」の段階 | CGパース(まだ建っていない) |
| マスク着用の写真 | 上半分だけの広角レンズ | 夜景の外観写真(ディテールが見えない) |
| 加工アプリで盛った写真 | 現物と異なります | 広角レンズで6畳が12畳に |
| 集合写真(本人がどれかわからない) | 「友達が多い」のアピール。個体の識別を拒否 | 航空写真(物件がどれかわからない) |
| 高級レストランの料理写真 | 「年収の暗号」。生活水準の間接アピール | 共用施設の写真(ラウンジ、スパ) |
| ペットの写真 | 「かわいい」の代理変数。本人の代わりにペットが営業 | モデルルームの家具(物件に付属しません) |
「旅行先の風景写真」がCGパースと同じ構造というのは笑える。まだ「建物」が存在しないのに、「立地の良さ」だけで売ろうとしている。「バリのサンセットの写真を撮るセンスがある」ことは伝わるが、あなた自身の情報はゼロだ。
高校パンフ#4でカワセトモコが言った言葉がここでも響く。「写真は一番いい日の一番いい瞬間。あなたが一緒に過ごすのは普通の日」。マッチングアプリの写真は「奇跡の一枚」。あなたがデートで会うのは「普通の一日」の相手だ。
ここまで偉そうに分析してきたが、告白しなければならない。私はまだ自分のプロフィールを書けていない。
51本のポエム分析を書いた人間は、ポエムの構造を知りすぎている。自分でポエムを書こうとすると、すべての操作が見えてしまう。
ソノダマリ、プロフィール執筆の記録
第1稿:「カフェ巡りが好きです。休日は読書をしています」
→ 自己ツッコミ:これは変装だ。「カフェでマンションポエムを分析している」が「カフェ巡りが好き」に着替えている。蒸発もある。「読書」の中身が蒸発している。読んでいるのは各国の不動産広告だ。
第2稿:「言葉の分析が好きです。広告業界出身です」
→ 自己ツッコミ:抽象的すぎる。補填だ。「言葉の分析」は何も語っていない。「上質」と同じ。
第3稿:「不動産広告の研究をしています。マンション名の『プラウド』が『傲慢』という意味だと知ったとき、笑いが止まりませんでした」
→ 自己ツッコミ:正直すぎる。これは消去の拒否だ。しかしデートの場で「"Proud"は英語では傲慢の意味なんですよ」と語り始める人間を、誰が右スワイプするのか。
第4稿:「友人が多いほうです。新しい出会いを大切にしたいです」
→ 自己ツッコミ:完全なるポエム。情報量ゼロ。「DXを加速する」と同じレベル。自分が批判してきたものそのもの。
第5稿:(白紙)
5回書いて5回消した。ポエムの構造を知っている人間がポエムを書くのは、手品のタネを知っている観客がマジックショーを楽しめないのと同じだ。
マンションデベロッパーのコピーライターは、自分が補填していることを知っている。でも仕事だから書ける。高校の広報担当者は、「一人ひとりが輝く」が定員割れの変装だと知っている。でも学校のために書ける。
しかしセルフポエマイゼーションは、自分で自分を騙す必要がある。コピーライターであると同時に物件でもある。広告主であると同時に商品でもある。分析者であると同時に分析対象でもある。この三重の自己矛盾に、ポエム分析者は耐えられない。
自分のプロフィールは書けないが、他人のプロフィールは読める。51本で鍛えた暗号解読術を、マッチングアプリに適用しよう。
| プロフィールの言葉 | 暗号の意味 | 操作 |
|---|---|---|
| 「自然体でいられる関係がいい」 | 努力したくない | 変装 |
| 「一緒にいて楽かどうかが大事」 | 自分に合わせてほしい | 変装 |
| 「旅行好き」 | 他に書くことがない | 補填 |
| 「友達からはよく明るいと言われます」 | 自分の長所を自分で言えない | 翻訳(第三者の声を経由) |
| 「まずはお友達から」 | 本気度が低い/失敗を恐れている | 変装 |
| 「年齢より若く見られます」 | 年齢を気にしている | 変装 |
| 「仕事が忙しくてなかなか出会いがなく」 | 年収は高い(はず)。社交性はない | 変装+消去 |
| 「インドア派ですがアウトドアも好きです」 | 何も言っていない。全方位に好感を得ようとする補填 | 補填+蒸発 |
「インドア派ですがアウトドアも好きです」は傑作だ。これは「アジャイルでスケーラブルなエンタープライズグレードのソリューション」と同じ構造をしている。全部カバーしようとして、何もカバーしていない。
51本の分析で、これまで見てきたポエムは全部、他人が書いていた。
書く人と、売られるものが、別だった。コピーライターは物件ではない。広報担当は学校ではない。距離があるから、冷静にポエムを設計できる。
マッチングアプリのプロフィールは違う。書く人=売られるもの。距離がゼロ。自分の欠点を自分で変装させなければならない。自分の空白を自分で補填しなければならない。自分の都合の悪い情報を自分で消去しなければならない。
これはつらい。コピーライターなら「この物件は駅遠だから、緑を推そう」と客観的に判断できる。しかし自分に対して「私は○○が弱いから、△△を推そう」とは——わかっていても苦しい。
セルフポエマイゼーションとは、自分自身の負の空間を知りながら、それを埋める作業である。
マンションポエムS1#13で「負の空間」を分析した。広告に書かれていないもの。マンションの場合は気づかなければいい。しかし自分自身の負の空間は、自分がいちばんよく知っている。知っていて、それでも「上質がそびえる」と書かなければならない。
ポエマイゼーションで書いた結論を繰り返す。「ポエムとデータを区別すること」。これがすべてだ、と。
しかしマッチングアプリの分析をして、ひとつ付け足さなければならないことがわかった。
自分自身にもポエムとデータがある。
「旅行好き」はポエムだ。「年3回、東南アジアに行く。予算は1回10万円」がデータだ。「笑いの絶えない家庭を」はポエムだ。「毎週末一緒に料理を作りたい。金曜の夜は映画を観たい」がデータだ。「自然体で」はポエムだ。「日曜の午前中は一人の時間がほしい」がデータだ。
マッチングアプリのプロフィールを書くとき、他人のプロフィールを読むとき、ポエマイゼーションの6操作を思い出してほしい。書かれている言葉ではなく、書かれていない事実を想像すること。それがマンションを買うときも、SaaSを導入するときも、恋人を探すときも、同じように役に立つ。
……私のプロフィール? まだ白紙だ。6稿目を検討中。今度こそ、ポエムでもデータでもない、何か正直なものが書けるといいのだが。
たぶん無理だ。だって「正直に書きたい」という願望自体が、すでにポエムなのだから。
全員が、自分自身については15歳だ。