目を、開けた
アヤとおばあちゃん、病室で——トロッコ問題シリーズ #8

小川アヤ、高校二年。テスト終わりの日曜の朝、家族で岐阜の病院へ。おばあちゃんが、目を、覚ました、と聞いた。

病室へ

日曜の朝、私たち家族は、もう一度、岐阜行きの車に、乗った。先週の土曜の朝に、急いで岐阜に向かった、その同じ道を、今日は、少しだけ、ゆっくり、走った。

病院の駐車場に車を停めて、エレベーターで五階の病室に、上がった。ナースステーションで、挨拶をして、病室のドアを、ノックした。

「ばあちゃん、入るよ」

おばあちゃんは、ベッドで、上半身を、少し、起こしていた。点滴は、もう、外れていた。

「ああ、来たかね」

おばあちゃんの声は、先週よりも、少し、はっきりしていた。私は、少しだけ、安心した。

家族の決定を、伝える

お父さんが、ベッドの横の椅子に、座った。お母さんと私は、立っていた。

お父さんばあちゃん、手術、無事に終わったって。あとは、リハビリだって

おばあちゃんありがとう

お父さんで、ばあちゃん、家族で、相談したんだ

おばあちゃんうん

お父さんリハビリのあと、岐阜の家に、戻れるようにする。介護サービス、最大限、入れる。俺と、姉さんと、弟で、月に何回か、交代で、見に来る。アヤも、夏休み、来てくれるって

おばあちゃんは、しばらく、黙っていた。それから、ゆっくり、頷いた。

おばあちゃんそうかい。うん、それで、いい

お父さんうん

おばあちゃんばあちゃんが、転んだのが、悪かったな。心配かけたな

お父さん謝ることじゃ、ないよ

おばあちゃん謝らんと、ばあちゃん、気が、すまんからな

お父さんは、おばあちゃんの手を、軽く、握った。

二人だけ

そのとき、看護師さんが、ドアをノックして、入ってきた。「先生から、手術後の経過の、ご説明があります。ご家族の方、ナースステーションに、お願いします」。お父さんとお母さんが、立ち上がった。

お父さんアヤ、ばあちゃんと、ちょっと、おって

アヤうん

二人が、病室を、出ていった。おばあちゃんと、私だけが、残った。午後の光が、窓から、斜めに、入っていた。

アヤおばあちゃん

おばあちゃんアヤちゃん

アヤ気分、どう

おばあちゃんまあまあ

アヤおばあちゃんも、「まあまあ」、言うんだね

おばあちゃんアヤちゃんから、覚えた

二人とも、笑う。

短い間。

おばあちゃんアヤちゃん

アヤうん

おばあちゃんありがとうな

アヤ何が

おばあちゃん何かは、分からんけど

アヤの中で、何かが、立ち上がる。

アヤいつでも

おばあちゃんいつでも

短い間。

おばあちゃんその「いつでも」、ええな

アヤミユから、覚えた

おばあちゃんミユちゃん、いう子か

アヤ友達

おばあちゃんええ友達か

アヤうん

おばあちゃんそうか

帰り道

お父さんとお母さんが、病室に、戻ってきた。

「ばあちゃん、アヤと、何、話してた」

「いつでも、の話」

「いつでも?」

「うん、ええんよ、それで」

お父さんは、首を、傾げた。お母さんが、笑った。私は、何も、言わなかった。

帰りの車内で、私は、また、後部座席にいた。先週と、同じ席。違うのは、おばあちゃんが、目を、開けていた、ということ。

おばあちゃんの「ありがとうな」「何かは、分からんけど」「いつでも」が、頭の中で、繰り返し、聞こえていた。

ミユから覚えた言葉が、おばあちゃんの口で、立ち上がる。

それは、トロッコ問題の答えではなかった。けれど、トロッコ問題の周りで、生きている人たちが、お互いに、渡し合っている、何か、だった。

渡し合っている、という言葉が、頭の中で、すこし、馴染んだ。

部屋で

家に帰って、自分の部屋で、ベッドに寝そべって、天井を見ていた。

おばあちゃんは、岐阜の家に、戻れる。リハビリが、ある。介護サービスが、入る。家族で、交代で、見に行く。私も、夏休み、行く。

おばあちゃんが、いつまで、家にいられるかは、分からない。半年か、一年か、もっと長いか、もっと短いか。

分からないまま、明日が、来る。

明日、火曜の三限が、ある。先生に、話そうかと、思う。話さないかもしれない。話すかもしれない。

天井には、まだ、何も、書かれていない。

書かれていない、ということが、ずっと、私を、待っていた、気がする。

明日、また、考える。

明日も、考え続ける。

→ 終話:火曜の三限、もう一度(アヤと、倫理の先生、トロッコ問題シリーズ #9)
パラレルシリーズ最終話:揺らぎは、似ていた(trolley-09 の十日後、図書室でアヤがジュンと初めて出会う)
← 前話:一緒に、考える(テスト終わりのカフェ、トロッコ問題シリーズ #7)
← シリーズ #6:もうちょっと、を、続ける
← シリーズ #5:岐阜にいる、もうちょっと
← シリーズ #4:おばあちゃんに、聞こう
← シリーズ #3:指揮者を、選ぶ
← シリーズ #2:お先にどうぞ
← シリーズ #1:先生、納得がいきません
← 関連:会話劇五景——シリーズの裏の狙い
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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。