一緒に、考える
アヤとミユ、テスト終わりのカフェ——トロッコ問題シリーズ #7

小川アヤ、高校二年。期末テストが終わった金曜の夕方。ミユ(サカモト・ミユ)と、駅前のスタバで、テスト後の打ち上げ。アヤは、この三週間ほどのことを、ミユに、初めて、話そうとしていた。

テスト終わりのスタバ

火曜の三限の、トロッコ問題から、もう、三週間が経っていた。期末テストが終わって、解放感の金曜の夕方、私とミユは、駅前のスタバの窓際の席に、いた。

ミユは、抹茶ラテを頼んだ。私は、いつものラテ。

ミユとは、ほぼ毎日、学校で会っているけれど、テストの週は、お互い、勉強で、深い話を、しなかった。今日は、テスト解放の、第一日目だった。

切り出し

ミユアヤ、最近、忙しそうだったね

アヤうん、ちょっと、いろいろ

ミユテスト、どうだった

アヤまあまあ

ミユアヤの「まあまあ」は、ふつうの「まあまあ」じゃないよね

アヤバレた

ミユバレた

短い間。

アヤミユ、聞いてくれる

ミユうん

アヤトロッコ問題って、知ってる

ミユ五人と一人の?

アヤそう

ミユ倫理の授業でやるやつね。うちのクラスは、もうちょっとあとだと思う

アヤ私のクラスは、先月、やった

ミユで?

アヤ私、納得いかなくて

ミユアヤらしい

アヤえ?

ミユアヤ、数で決められるの、嫌いそうだから

アヤ、少し、笑う。

アヤそう

ミユ分かる

アヤ先生に質問しに行った、放課後

ミユ行ったの

アヤ行った

ミユアヤって、勇気あるね

アヤううん、ただ、納得しなかったから

ミユ納得しないまま、考え続ける、っていう人、いるよね

アヤ先生、そう、言ってた

ミユそう

おばあちゃんの話

ミユ、抹茶ラテをひとくち飲む。

アヤそれから、いろいろ、あったの

ミユいろいろ

アヤおばあちゃんが、岐阜の家で、転んで

ミユえっ

アヤ命に別状はないんだけど、骨折で、いま、入院中

ミユそっか

アヤ入院する、その前の週に、家族で、おばあちゃんを、どこに、住んでもらうかの相談を、してたの

ミユうん

アヤAホームとBホームと、家に来てもらう、っていう三択で

ミユ数で並んでるね

アヤそう

ミユそれで?

アヤ私、お父さんに、おばあちゃん、自分でどう思ってるか、聞いた? って、言った

ミユアヤ、言ったんだ

アヤ言った

ミユえらい

アヤえらいかどうかは、分かんない

ミユ私だったら、言えないかも

アヤミユでも?

ミユ私、家族の話、口出すの、なんか、苦手

アヤそっか

短い間。

アヤそれで、お父さんが、おばあちゃんに、電話して、聞いた

ミユうん

アヤ「岐阜にいる、もうちょっと」って

ミユおばあちゃん、そう、言った

アヤ言った

ミユ第四の選択肢、って感じ

アヤ私もそう思った

ミユで、その翌週、転んだ

アヤ転んだ

ミユタイミング

アヤタイミング、ね

分かる、けど

ミユ、しばらく、黙っている。それから——

ミユアヤ

アヤうん

ミユ大変だったね

アヤ大変、というか、考えてた

ミユ考えてた、ね

アヤミユに、いま、話したの、初めて

ミユ初めて、ね

アヤミユに、話したかった

ミユうん

アヤけど、何を、話したかったのか、自分でも、よく、分からない

ミユ話したい、ということは、話したい、ということだから、それで、いいんじゃない

アヤそっか

ミユそれに、私、聞いてた

アヤ聞いてくれた

ミユ聞いてた、ね

短い間。

アヤミユ

ミユうん

アヤありがと

ミユ何が

アヤ何かは、分かんないけど

ミユいつでも

アヤいつでも

コーヒーをひとくちずつ飲む。窓の外、夕方の街。

ミユアヤさ

アヤうん

ミユトロッコ問題、私も、答え、出ないと思う

アヤ私も、出ない

ミユ出ないんだけど、出ないまま、考え続けるのは、たぶん、できる

アヤできる

ミユ一緒に、考えるのは、もっと、できる

アヤ一緒に

ミユ一緒に

アヤ分かる

ミユ分かる、けど

アヤけど?

ミユ「分かる、けど」って、私、サカモトとの口癖だったのに、今日、アヤと、使った

アヤたぶん、私たちのクラス全員の口癖に、なりつつある

ミユなってる

アヤなってる

二人、笑う。

ホームで

スタバを出て、駅まで、ミユと並んで歩いた。

ミユは、塾の方向、私は、家の方向。改札の前で、別れた。

「またね」「また」

別れたあとで、私は、ひとりで、ホームに、向かった。電車を待ちながら、考えた。

トロッコ問題のこと、おばあちゃんのこと、これまで、ひとりで、考えてきた。考え続ける、ということは、ひとりでするものだと、思っていた。

けれど、今日、ミユに話したら、ミユが、聞いてくれた。聞いた、というのが、ミユの所作だった。聞いて、それから、「分かる、けど」と、ミユは、言った。それは、答えではなかったけれど、答えではない、ということが、私には、ちょうどよかった。

一緒に、考える、というのは、答えを一緒に出す、ということではなかった。答えがないものを、一緒に、答えがないまま、抱えていく、ということだった。

たぶん、それが、納得しないまま、考え続ける、というのを、ふたりで、やる、ということなのだ、と思った。

たぶん、で、止まる。

止まるけれど、もう、ひとりで、止まる、のではなかった。

電車が、来た。乗った。窓の外、街灯が、夕方の薄い光の中で、いくつか、灯っていた。

部屋で

家に帰って、自分の部屋で、ベッドに寝そべって、天井を見ていた。

おばあちゃんは、まだ、意識が、戻ったり、戻らなかったり、している。来週、お見舞いに、また、行く。

火曜の三限が、来週も、ある。先生に、何か、報告できるかもしれない。報告できないかもしれない。

ミユとも、また、話すかもしれない。話さないかもしれない。

どちらにしても、私は、もう、ひとりではない、と思った。

天井には、まだ、何も、書かれていない。

書かれていない天井を、ひとりで見るのと、ふたりで見たことを思い出して見るのは、違う。

違うけれど、まだ、何も書かれていない、ということは、変わらない。

明日が、来る。

→ 次話:目を、開けた(病室で、おばあちゃんと再会、トロッコ問題シリーズ #8)
パラレルシリーズのジュン視点・全体像(種明かし/設計開示)
→ 終話:火曜の三限、もう一度(トロッコ問題シリーズ #9・終話)
← 前話:もうちょっと、を、続ける(トロッコ問題シリーズ #6)
← シリーズ #5:岐阜にいる、もうちょっと
← シリーズ #4:おばあちゃんに、聞こう
← シリーズ #3:指揮者を、選ぶ
← シリーズ #2:お先にどうぞ
← シリーズ #1:先生、納得がいきません
← 関連:分かる、けど(サカモト×アヤ会話劇シリーズ #1、ミユの「分かる、けど」の起源)
← 関連:ミユがサカモトだったときのこと(アヤの独白)
← 関連:会話劇五景——シリーズの裏の狙い
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【トロッコ問題シリーズ予告】
本作はシリーズ第7話。アヤがこれまでの三週間を、初めて親友のミユに話した日。「ひとりで考える」と「一緒に考える」の違いが立ち上がる。サカモト×アヤ会話劇シリーズ(『分かる、けど』『いつでも』『親が、知り合いだった』)と、トロッコ問題シリーズが、ここで合流する。次話以降、終話に向けて、アヤが先生に再び会う場面、または別の選択を迫られる場面が予定されている。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。