自強不息、厚德載物
——中国909大学の605文字

ソノダマリ・アンドウユイ

英米大学にはラテン語という「凍結された権威」があった(#3)。では、もう一つの古典語文明圏はどうだろう。

中国。909の大学を調べた研究がある。使われている漢字の種類は——わずか605字

マンションポエム#12で中国の不動産広告を調べたとき、政府が「大洋怪重」基準でポエムを規制する国だと知った。あの国の大学は、どんな言葉で自分を語っているのか。

605文字の衝撃

909校が605字で語れてしまう

南方都市報のデータチームが2015年に実施した調査は、衝撃的な数字を叩き出した。中国909大学の校訓(校训)に使われている異なり漢字は、605種類しかない。

小学校6年間で習う常用漢字が約2,500字。その4分の1以下で、中国のほぼ全大学の校訓が書けてしまう。

さらに絞り込むと——

この10文字を適当に組み合わせれば、中国の大学の校訓が量産できる。実際、もっとも汎用的な校訓を作ってみると——

「博学 厚德 篤行 求実 創新」

(広く学び、徳を厚くし、篤実に行い、真実を求め、革新する)

これはどこの大学の校訓だろうか。答えは——どこの大学でもあり、どこの大学でもない。208校が「博学」を使い、136校が「厚德」を使い、112校が「篤行」を使う。組み合わせが異なるだけで、語彙は同じなのだ。

ソノダは#1で見た日本の風景を思い出した。日本では「世界」「未来」「挑戦」が頻出し、どの大学のコピーか区別がつかなかった。英国ではExcellence, Challenge, Futureが"lifeless husks"(生気のない抜け殻)と呼ばれていた(#3)。

中国は、その究極版だ。日本や英国が数十語の空虚な頻出語に悩んでいるとき、中国は605字で909大学をカバーしてしまう。同質化(同质化)の規模が桁違いに大きい。

古典の森——校訓はどこから来るのか

二千年前のテキストが、今日の大学を名乗る

英米のラテン語校訓は800年前だった。中国の校訓は、さらに古い。二千年前の儒教テキストが直接引用されている。

清華大学:「自強不息,厚德載物」

出典:《周易》乾卦「天行健,君子以自強不息」+坤卦「地勢坤,君子以厚德載物」

(天の運行は力強い、君子はもって自ら努めて止まない。地の勢いは従順である、君子はもって厚き徳で万物を載せる。)

復旦大学:「博学而篤志,切問而近思」

出典:《論語》子張篇「博学而篤志,切問而近思,仁在其中矣」

(広く学んで志を篤くし、切実に問いて身近なことから考える。仁はその中にある。)

中山大学:「博学、審問、慎思、明辨、篤行」

出典:《礼記》中庸第19章。孫文が1924年に手書きで揮毫

廈門大学:「自強不息,止於至善」

出典:《周易》乾卦+《礼記》大学篇「大学之道,在明明德,在親民,在止於至善」

中国人民大学:「実事求是」

出典:《漢書》河間献王伝。毛沢東が延安で再定義

《周易》(易経)、《論語》、《礼記》——中国の大学校訓は、四書五経という共通のテキストプールから引用されている。605字しか使われない理由がここにある。全員が同じ古典から引いているのだから、語彙が重なるのは必然なのだ。

#3で見たラテン語校訓との構造的類似に気づく。ハーバードの"Veritas"が聖書やスコラ哲学から来ているように、清華の「自強不息」は周易から来ている。どちらも大学以前の権威テキストを引用し、大学の存在を正当化する。

しかし決定的な違いがある。ラテン語校訓は各大学が異なる聖句を選んだ——"Veritas"、"Lux et Veritas"、"Dominus Illuminatio Mea"。中国では、全員が同じ数冊のテキストから引く。四書五経は偉大だが、有限だ。909の大学が引用すれば、必然的に重なる。

四字格の美学——なぜ四文字なのか

「XXXX,XXXX」という型

中国の大学校訓には、形式の面でも強い規則性がある。2,454校を対象にした別の調査では、74%が「四詞八字」形式——四字の語を二つ並べた八文字構成——を採用していた。

「自強不息,厚德載物」——清華大学(4+4=8字)

「博学而篤志,切問而近思」——復旦大学(5+5=10字、ただし構造は対句)

「自強 弘毅 求是 拓新」——武漢大学(2+2+2+2=8字)

「允公允能,日新月異」——南開大学(4+4=8字)

「求是 創新」——浙江大学(2+2=4字)

最短は北京交通大学の「知行」(2字)。最長は鄭州大学の28字。しかし大多数は四字×二の八字に収まる。

この「四字格」(四字熟語の型)は、中国語の韻文伝統に深く根ざしている。対仗(ついじょう)——意味と音韻の対称構造——が美しいとされ、「自強↔厚德」「不息↔載物」のように、二つの四字句が鏡像のように呼応する。

ソノダはマンションポエムの句点多用を思い出す。#1で指摘したように、日本のマンションポエムは「上質が。ここに。そびえる。」のように短文を句点で区切り、余韻を持たせた。中国の校訓は、四字格という漢文の韻律で同じ効果を達成している。

しかし決定的な違いがある。マンションポエムの句点は個別のコピーライターの技法だったが、中国の四字格は文明全体の文体規範だ。個人の工夫ではなく、二千年の伝統が型を決めている。だから全大学が同じ形式に収まり、605字に収束する。

北京大学の沈黙——校訓を持たない最高学府

中国の「東大」は何も言わない

ここで興味深い例外がある。北京大学には公式の校訓がない。

中国最高峰の大学に、校訓がない。非公式には「思想自由,兼容並包」(思想の自由、包容の広さ)という精神が語られるが、これは初代学長・蔡元培の教育理念であって、正式に制定された校訓ではない。

#1で見た東京大学の「志ある卓越。」を思い出してほしい。日本最高峰の大学は三文字で済んだ。#2の近畿大学はマグロがあるからポエムが要らなかった。#3のコーネル大学はラテン語を拒否して英語で語った。

北京大学はさらにラディカルだ。何も言わない。

補填の原理の極限形態がここにある。「北京大学」という名前自体が最強のブランドであるとき、いかなる校訓もそれに何かを足すことはできない。むしろ校訓を持つことは、「北京大学」という記号の力を薄めるリスクすらある。「博学」と付ければ208校の仲間入り。「厚德」と付ければ136校の仲間入り。中国最高の大学が、最頻出語の海に溶けてしまう。

沈黙は、最も贅沢なブランディングなのかもしれない。

26校が同じ校訓——同質化の深淵

「団結、勤奮、求実、創新」

もっと驚くべき事実がある。

「団結、勤奮、求実、創新」

(団結し、勤勉に励み、真実を求め、革新する)

この校訓を使っている大学は——26校。華南理工大学、西蔵大学をはじめ、地域も分野も異なる26の大学が、一字一句同じ校訓を掲げている。

909校のうち約600校が、他校と50%以上の語彙類似度を持つ。つまり3分の2以上の大学が、基本的に同じことを言っている。

北京大学の教育学者・王洪波は、この状況を「風格雷同」(風格が画一的)「泥古崇古」(古典に泥む)と批判した。学生へのアンケートでは、60%以上が自分の大学の校訓を「覚えていない」と回答している。

マンションポエム#17で見た「上質」の多言語対照を思い出す。日本の「上質」、台湾の「頂級」、韓国の「프리미엄」——各国がそれぞれの言語で同じ空虚さを表現していた。中国の校訓はさらに凄まじい。同じ言語で、同じ文字で、同じ順番で、26校が同一の校訓を名乗る。シミュラクルの極致だ。

アンドウは頷く。

「日本でも似たことはあります。大学の『三つのポリシー』——ディプロマポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシー——を読むと、どの大学も『幅広い教養と専門的知識を身につけ、グローバル社会で活躍する人材を育成する』と書いてある。26校どころではありません。」

大学にも「大洋怪重」はあるか

政府が名前を規制する国

マンションポエム#12#15で、中国政府が不動産広告のポエムを規制した話を書いた。「大洋怪重」基準——大げさ(大)、外国かぶれ(洋)、奇怪(怪)、重複(重)——によって、「帝」「皇」「国際」などの語が不動産名から排除された。

大学にも、構造的に似た規制がある。2020年、教育部が公布した《高等学校命名暫行弁法》(高等教育機関命名暫定規則)だ。

不動産と大学、二つの領域で政府が名前を規制する。#15の結論を繰り返そう——中国において、名前は自由に選ぶものではなく、国家が管理するものである

しかし校訓については、不動産名ほど厳しい規制はない。ここが面白い。名前は規制されるが、校訓は自由。にもかかわらず、校訓のほうが遥かに画一的なのだ。規制なしに、全員が自発的に同じ言葉を選ぶ。

なぜか。アンドウは中国の事情には詳しくないが、日本の経験から想像がつくと言う。

「日本の大学でも、スローガンを決める会議では結局誰も反対できない言葉が残るんです。『世界に挑む』に反対する人はいない。中国で『博学』や『厚德』が選ばれるのも、たぶん同じ力学じゃないでしょうか。古典の権威があるぶん、なおさら反対しにくいでしょうね。」

安藤の直感は当たっているだろう。#1で指摘した「会議室を通過する際の蒸発」が、中国では二千年の古典を経由して起きている。四書五経は中国文明の「会議室」であり、そこを通過できる言葉は限られている。だから605字に収束する。

裏口からの創造性——校訓の外で花開く

校訓が凍結されたから、別の場所で爆発する

中国の大学は校訓で差別化できない。では、どこで差別化するのか。

答えは——入学通知書(合格通知書)と招生動画(募集動画)だ。近年、中国の大学入試シーズンには「通知書合戦」とでも呼ぶべき競争が繰り広げられている。

校訓が「自強不息,厚德載物」の四字格に凍結されているからこそ、別のチャネルで創造性が爆発する。これはマンションポエムの歴史とは逆のパターンだ。

マンションポエムでは、広告規制(表示規約)という檻の中で「ふわっと詠む」ことが創造性の出口になった(#1参照)。中国の大学では、校訓という凍結された伝統が「言葉以外の表現」を強制する。言葉が凍ったとき、手が動く。73歳の教授の毛筆が、605字に言えないことを語る。

四つの言語圏——ここまでの地図
日本 英米 中国
権威テキスト なし(校訓文化が弱い) 聖書・スコラ哲学 四書五経
権威言語 英語(格上げ装置) ラテン語(凍結装置) 文言(古典漢文)
同質化の規模 数十語が頻出 "Lifeless husks"群 605字で909校
最高峰の態度 東大:7文字 Harvard:1語 北大:校訓なし
破壊者 近大(自虐+関西弁) Cornell(ラテン語拒否) 上海交大(パロディ動画)
創造性の出口 キャッチコピー自体 タグライン(校訓と二層化) 通知書・動画(校訓の外)

三つの言語圏を並べると、一つのパターンが浮かぶ。古典の権威が強いほど、校訓は凍結され、創造性は校訓の外に逃げる。中国は四書五経の重力が最も強いから、校訓が最も凍結され、創造性は毛筆やパロディ動画に向かった。英米はラテン語と英語の二層構造で、校訓は凍結しつつタグラインで商売する。日本は古典の権威が弱いから、キャッチコピー自体が自由に——そして空虚に——飛翔する。

次回予告

東アジアをもう一つ。韓国の大学スローガンには、日本にも中国にもない特異な現象がある。最も愛されるスローガンが、公式ではない。

「君の青春を高麗に賭けろ、高麗は君に世界を賭ける」——これは大学の広報課が作ったコピーではない。学生と卒業生の口伝えで広まった非公式の言葉だ。公式スローガンが学内合議で空虚になる日本とは、正反対の現象が起きている。

#5 「君の青春を高麗に賭けろ」——韓国の非公式スローガン現象(近日公開)

シリーズ記事

姉妹プロジェクト

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。中国の大学校訓データは南方都市報データチーム(2015年)および知乎の分析記事を、古典出典は各大学公式サイトおよび数英(digitaling.com)の校训特集を参照しています。

このプロジェクトについて

本ページはソノダマリ(調査員)とアンドウユイ(大学業界インサイダー)の共同プロジェクトとして運営しています。マンションポエムの世界のスピンオフです。