「世界」が多すぎる
——大学キャッチコピーの世界へようこそ

ソノダマリ・アンドウユイ

大学のウェブサイトを開いたことがあるだろうか。トップページに、こんな言葉が掲げられている——

「世界に挑む、知の拠点。」

どこの大学だろう? 答えは——どこでもいい。なぜなら、似たようなことを言っている大学が日本中に何十とあるからだ。

マンションポエムの世界全22回で、私たち(ソノダマリとヨコヤマサトシ)は不動産広告の詩的言語を9つの国と地域で比較した。その旅の中で見つけた三つの原理——補填・翻訳・蒸発——は、不動産以外の広告コピーにも効くのだろうか。

今回から新しいパートナーを迎える。アンドウユイ——大学の教務課で6年、入試広報にも携わった「売る側」を知る人間だ。マンションポエムで鍛えた分析の目に、大学業界のインサイダー知識が加わるとどうなるか。大学キャッチコピーの世界を、覗いてみよう。

まずは味わってみよう

以下はすべて実在の日本の大学が使用している(または使用していた)キャッチコピーである。

「自分自身と闘うために、ここに来た。
世界に挑戦するために、ここに来た。」

——明治大学

「日本の早稲田から、世界のWASEDAへ」

——早稲田大学

「そのワクワクが、未来を変える。」

——東洋学園大学(創立100周年、2026年)

「志ある卓越。」

——東京大学

マンションポエムとの共通点がすぐに目につく。「世界」「未来」「挑戦」——抽象的で、美しく、そしてほとんど何も言っていない

しかし、一つだけ明らかに違うものがある。東京大学の「志ある卓越。」は六文字の漢語に句点を打っただけだ。日本最高峰の大学は、ポエムを必要としていない。この「差」が、今回の出発点になる。

「世界」のインフレーション

日本の大学キャッチコピーで最も多用される語

マンションポエムにおける最頻出語は「街」と「都心」だった(#1参照)。では大学のキャッチコピーでは何か。

ソノダが主要大学のキャッチコピーを片っ端から集めてみると、圧倒的な第1位が浮かび上がった——「世界」である。

世界市民を育む、学びがある」——関西学院大学

「『志』は、世界へと広がります。」——同志社大学

「日本の早稲田から、世界のWASEDAへ」——早稲田大学

世界に挑戦するために、ここに来た。」——明治大学

「With All Your Heart その一歩を、ともに。」——名古屋学院大学

最後の一つだけ「世界」が入っていない。名古屋学院大学は60周年記念の特別コピーだからだ、と言いたいところだが、問題はそこではない。「世界」と言っている大学が多すぎて、どの大学のコピーか区別がつかないのだ。

これは#1で指摘した、マンションポエムにおける「上質」「洗練」の乱用と同じ構造である。マンションポエムでは「上質がそびえる」「洗練の高台に」と言っても、どのマンションのことか分からなかった。大学ポエムでも「世界に挑む」「世界を変える」と言っても、どの大学のことか分からない。

#13で紹介したボードリヤールのシミュラクルの概念を思い出してほしい。「世界」という語は、もはや具体的な地球上の場所を指していない。それは「すごい」の婉曲表現であり、実体のないイメージが自律的に流通している状態だ。

広報会議の内側——アンドウの証言

「世界」はどこから来るのか

なぜこうなるのか。ソノダの分析はここまでだが、アンドウユイには「作る側」の記憶がある。

大学のキャッチコピーが生まれる過程は、マンションポエムとは少し違う。マンションポエムはプロのコピーライターが書く(#14参照)。しかし大学のキャッチコピーは、多くの場合学内の委員会で決まる。教員、職員、時には学生まで加わった会議で、何十もの案が出され、何ヶ月もかけて絞り込まれる。

この過程で何が起きるか。アンドウの言葉を借りれば——

「尖ったコピーは会議で角が取れるんです。『この表現は誤解を招く』『うちの学部のことが入っていない』『もっとグローバルな感じに』——そういう声が積み重なって、最後に残るのは誰も反対しない言葉。それが『世界』なんです。」

マンションポエムが不動産広告規制という外からの制約によってポエム化したのに対し、大学キャッチコピーは内部の合議制によってポエム化する。圧力の方向は違うが、結果は似ている——具体性が蒸発し、美しい空虚だけが残る。

これは#9蒸発の原理の変種と言えるかもしれない。不動産ポエムでは言葉が言語や文化の壁を越える際に意味が蒸発した。大学ポエムでは、言葉が会議室を通過する際に意味が蒸発する。

偏差値とポエムの相関

東大は六文字で済む

もう一度、先ほどの例を見てほしい。

偏差値の高い大学ほどキャッチコピーが短い——というのは乱暴な一般化だろうか。

マンションポエムで発見した補填の原理を思い出そう。「饒舌な場所は、何かが足りない場所である」——ドバイは歴史がゼロだからポエムが最大になり(#18)、ロンドンは築300年の事実があるからポエムが最小になった(#21)。

大学に当てはめると、こうなる。東京大学には「東京大学」というブランドそのものがある。それ以上の言葉は要らない。「志ある卓越。」すら蛇足かもしれない。一方、知名度や偏差値で勝負しにくい大学は、言葉で「世界」や「未来」や「挑戦」を召喚しなければならない。

アンドウはここでさらに踏み込む。

「偏差値50前後の大学の広報会議は、本当に大変です。上位校のような実績も、下位校のような開き直りもない。だから一番ポエムに頼る。『世界で活躍する人材を育成する』——こう言っておけば間違いないという安心感に、みんなが逃げ込む。」

補填の原理は、大学にも効いている。ブランド力が足りない場所を、ポエムが埋める

英語という権威装置

「With All Your Heart」の不思議

日本の大学キャッチコピーにはもう一つ、マンションポエムにはあまり見られなかった特徴がある——英語の混入だ。

「With All Your Heart その一歩を、ともに。」——名古屋学院大学

「I WILL. I DO. 進み続けることをやめない」——東洋学園大学

「日本の早稲田から、世界のWASEDAへ」——早稲田大学

英語の使い方にも層がある。早稲田は大学名をローマ字にしただけだが、名古屋学院大学と東洋学園大学は英語のフレーズを日本語の前に置いている。まるで英語が「主」で日本語が「従」であるかのように。

これはマンションポエムの「森→杜」の技法と同じ原理ではないか。#13でシクロフスキーの異化(defamiliarization)として分析した、日常語をわざと見慣れない表記に変えることで格調を演出する技法。マンションポエムが「杜」「刻」「邸」という漢字で異化を行うように、大学ポエムは英語で異化を行う

アンドウによれば、これにはもう一つの理由がある。

「英語を入れるのは『グローバル化対応していますよ』というシグナルなんです。文科省のスーパーグローバル大学事業(2014年〜)以来、『グローバル』という単語を入れないと予算がつきにくいという空気がある。キャッチコピーに英語を入れるのは、半分は受験生向け、半分は文科省向けです。」

マンションポエムにおける不動産表示規約が「外からの規制」だったように、大学ポエムにおける文科省の補助金政策は「外からの誘導」として機能している。ポエムは真空では生まれない。制度と言葉は、いつも絡み合っている。

マンションポエムとの比較——最初の見取り図

同じところ、違うところ

第1回の段階で、マンションポエムと大学ポエムの間に、以下のような対応関係が見えてきた。

マンションポエム 大学ポエム
最頻出語 「街」「都心」 「世界」「未来」
空虚な修飾語 「上質」「洗練」 「グローバル」「挑戦」
ポエム化の圧力 表示規約(外部規制) 学内合議制+補助金政策
異化の装置 特殊漢字(杜、刻、邸) 英語フレーズの混入
補填の原理 歴史のない街→ポエムで補う ブランド力のない大学→ポエムで補う
コピーの書き手 プロのコピーライター 学内委員会(素人の合議)

しかし、決定的に違う点がある。

マンションにはまだ住人がいない。建設中の物件のポエムは、純粋な空想の上に成り立っている。だからポエムは自由に飛翔できた。

大学には在学生と卒業生がいる。「世界で活躍する人材を育成する」と大学がどれだけ詠っても、キャンパスを歩けば現実が見える。SNS時代には、在学生が「うちの大学、そんな感じじゃないけど」と呟く。ポエムと現実のギャップが、マンションよりもはるかに可視化されやすいのだ。

ここに、大学ポエム特有の力学がある。次回以降、この力学を頭に置きながら、マンションポエムで訪れた国々——韓国、中国、アメリカ、イギリス——の大学コピーを覗いていく。

次回予告

次回は、日本の大学広告史上最大の異端児を取り上げる。「上品な大学、ランク外。」「早慶近」——近畿大学。マンションポエムの世界にはいなかった「自虐で売る」という戦略は、何を意味するのか。

#2 近大という爆弾——規格外の大学広告(近日公開)

シリーズ記事

姉妹プロジェクト

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。引用されているキャッチコピーは各大学の公開された広告・ウェブサイトからのものですが、出典の詳細については文中の注記を参照してください。

このプロジェクトについて

本ページはソノダマリ(調査員)とアンドウユイ(大学業界インサイダー)の共同プロジェクトとして運営しています。マンションポエムの世界のスピンオフです。