なんとなく、の、輪郭(v2)
東のことばのメモ #5・書き直し

東、高校二年、五組。月曜の三限のあと、お昼休み。隣の席のカナがお弁当箱を出しながら聞いてきた。

「今日の昼、購買にする?」

わたしは自分のお弁当袋を机の上に出して、答えた。

「なんとなく今日はお弁当」

カナは「ふうん」と短く言って、ゴムバンドを外した。それで会話はそこから別の方向に流れていった。

五音のあと

たまご焼きを一つ食べたところで、ふっと頭の中で別の声が立ち上がった。「なんとなく」って英語でなんと言うんだろう。

カナに答えたとき、深く考えていなかった。お弁当を朝つくってもらったから、というのも理由といえば理由だったし、購買にしてもよかった。たぶん、その日の身体のほうが、お弁当袋に手を伸ばすのを先にしただけだった。

カナは「なんで?」とは聞き返さなかった。「ふうん」だけで、応答は閉じた。

somehow、ではなくて

ハッケンサックの小学校で、同じ場面があったらどうなっていただろう。

たとえばハンナに「Are you getting lunch?」と聞かれて、「Somehow I brought my lunch」と答えるとする。これは少し変な気がする。「Somehow」は、自分の意思の届かないところで何かが起きたときの言葉で、自分のお弁当袋について使うと、意思の所在がぶれる。

I just felt like bringing my lunch today」のほうが近い。けれど、近づくほどに、「なんとなく」の中にあった、もっと薄い、選んでいないというより気が向かなかった、に近い感じが、こぼれていく。

英訳を一つ並べるたびに、何かが拾われて、何かがこぼれた。

分けてみたら

たまご焼きの次にブロッコリーを食べながら、頭の中で「なんとなく」を分けてみようとした。

朝、母が「なんでこの服?」と聞いた。「なんとなく」と答えた。これは、選ぶ理由がなかった、というよりは、説明したくなかった、に近かった。

三日前、駅のホームでなんとなく振り返ったら、同じクラスの男子が後ろを歩いていた。これは、振り返ったあとで「なんとなく」と思った、だけだった。理由は、振り返るときには、まだ存在していなかった。

同じ五音なのに、二つの場面で、何が起きていたかが違っていた。けれど、どこが違うのかをきちんと言葉にしようとすると、輪郭がぼやけた。「説明したくない」と「振り返ってから後付けする」は、別のものなのか、同じものの別の現れなのか、ブロッコリーを食べ終わるまでに、わからなくなった。

ハッケンサックの教室で

ハッケンサックで思い出すのは、五年生の社会の時間に、先生が「Why do you think so?」と何度も聞いた光景だった。「Why?」自体は怖くなかった。怖かったのは、Whyと聞かれたあとの、自分の頭の中だった。理由を言葉にしようとして、本当はそんなふうに考えていなかった、という気持ちが、一拍遅れてやってきた。

言葉にすると、思っていたことが、思っていたことと少しずれた。ずれたまま「Because…」と続けると、本当のことから遠ざかっていく感じがした。

「なんとなく」は、その遠ざかりが起きないままで応答を終わらせる。カナの「ふうん」は、その遠ざかりを始めない選択を、しているのかもしれなかった。

輪郭の、薄さ

五時限目の予鈴が鳴った。お弁当箱を片づけながら、まだ頭のどこかで「なんとなく」が漂っていた。

結局、英語の一語に置き換えるのは難しい、ということは前から知っていた。今日わかったのは、置き換えにくいのは、レイヤーが多いから、というよりは、輪郭そのものが薄いから、だった。輪郭が薄いから、英語の側のはっきりした単語に重ねたとき、ずれて、こぼれる。

カナは予鈴のあと、わたしのほうを見ずに、教科書を開いていた。お弁当の話は、もうしなかった。「なんとなく」は、たぶん、カナの中でも、輪郭を持たないまま流れていって、もう手元には残っていない。それでよかった。

明日もまた、わたしはカナに「なんとなく」と答えるかもしれない。明日のそれが、今日のそれと同じ薄さなのかは、明日にならないとわからない。同じだとしても、同じだと確かめないままで、たぶん、終わる。

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本作は東のシリーズ番外編「ことばのメモ」シリーズ第5話の第二稿(v2)。第一稿の問題(5英訳の網羅、4レイヤー分類、均等並列、「Why?」のステレオタイプ、「装置」というキメ語、「隣に、置いておく」の手垢)を踏まえ、書き直した。題材の「なんとなく」の薄さを、文体そのものでも体現することを目指し、分類・命名・整列を控えた。輪郭の薄さは、レイヤーの多さではなく、輪郭が薄いこと自体である、という地点に着地している。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。