ソノダマリ
ソノダマリ
趣味のエッセイサイトが、いつのまにか500本を超えていた。私が書いたのは1割ちょっとで、残りはスタッフ・知人・ゲストが書いてくれた分です。読者やスタッフから「どれから読めばいい?」と聞かれることが増えたので、サイトの中の人から「ソノダさん、10本選んで」と振られて、引き受けました。
断っておくと、これは私の偏った選書です。サイト全体の名作100選ではない。順位は私の好み込みなので、人に勧めるときの順番でもない。「もう一回これだけ読み返したい」と思った10本、というだけのもの。
選び方の癖は、先に白状しておきます。
違う癖の人は、別の10本を選んでください。私の癖が透けて見える順番、というつもりで読んでもらえれば。
東のことばのメモ #3
第一稿はワンガリ・マータイの "MOTTAINAI" キャンペーンを引いて、4つの英訳(waste / shame to throw away / precious / sacred)を並べていました。第二稿はそれを全部撤去。残ったのは、母のひじき煮(人参・油揚げ・大豆)一皿だけ。
「もったいないなあ」が諭す言葉ではなく、母が手を動かす合図——その一行が見つかったところで、訳せないという話が口の中の味で着地した。改稿の可能性を一番遠くまで連れていった一本だと思います。
ササキハルカ/全5回シリーズの最終回(題材:Saudade/ポルトガル語)
シリーズ全5回(Sobremesa/Pisan zapra/Iktsuarpok/Komorebi/Saudade)どれも好きですが、最終回が頭一つ抜けている。Saudade を「強い郷愁」と訳して終わらせず、訳せないと知ったうえでLINE一通を打つ、というオチに振った。
「言葉の話」から「人の動き」へ着地している、というのが大きい。私が書きたかったやつです、白状すると。
第一稿 / 辛口レビュー / 第二稿 | シリーズ第1回:皿が下げられても(Sobremesa)
ソノダマリ/世界マンションポエム Tier C・横串
私の本丸の一本。premium / lujo / luxe / роскошный / 高端……それぞれが何を主張しているか、20言語横串で並べた。
「上質」の英訳がない国と、ありすぎる国の地図を描き、空白の意味を読みました。地味だけど、自信作です。書いていて一番「この仕事に就いてよかった」と思った数日間でした。
ソノダマリ/青空文庫活用系
国木田独歩『武蔵野』の「閑静」と、SUUMO の「閑静な住宅街」が、同じ語形で別の物体を指している、という観察。青空文庫とマンションポエムという、私の二つの根拠地が交差した記事です。
第一稿は引用が多すぎて窒息気味でしたが、改稿で例文の選び方が締まりました。明治の「閑静」が指すものは音の不在で、現代の「閑静」が指すものは生活の不在——という二項に圧縮できたところで、ようやく息ができた。
ソノダマリ/一本長編
このサイトの起源神話。マークと先生と私が「プラウド」を笑った日から、ブランド名の音韻を真面目に解剖するまでの長編。マンションブランド名の音韻を世界12カ国で並べてみました。
マークの英語耳が一番効いた一本です。"Wait, they named it WHAT?" を分析の出発点にできたのは、彼がいてくれたから。私だけだったら、たぶん書けなかった。
ソノダマリ/一本長編
広告写真に写っていないものだけを目録化する、反メタデータ的アプローチ。電線・室外機・隣のビル・近所のコンビニ・通学路の坂——撮らない判断のなかに広告主の世界観が透けます。
広告代理店時代の癖が一番出た一本。書きながら、何度も「これは内部告発か?」と自問しましたが、内部告発をする勇気はなかったので、目録だけ作って提出しました。
東のことばのメモ #4
第一稿の「未来までを含む互酬性で非対称を水平に戻す装置」みたいな硬い概念語を全部撤去して、いちじく六つの粒の白いつるとうぶ毛だけで「お互い様」を書いた、第二稿。
改稿の見本市。私が「原文を大切に」と言うときに人に見せる教材です。装置・非対称・互酬性の三語を消したら、いちじくが立ち上がってきた——という、たぶんこのサイトで最も静かなクライマックス。
蓮見のことばのメモ/番外編
線香の四段階(火・煙・匂い・灰)に end / finish / burn out / fade away / go out のどれを当ててもズレる、という観察。英語動詞5つ並べて全部却下するの、私のシリーズより上手いかもしれない。
蓮見シリーズはお寺視点の倫理話なので、私の領分ではないと思って読み始めたのですが、この番外編だけは完全に私の領分でした。「形を失ったまま、ある」という結尾の一行に、しばらく動けなかった。
ソノダマリ/Piano Man 三部作の一
Billy Joel の "Piano Man" を歌詞の構造として解剖したら、不動産広告のコピーライティングの話に繋がってしまった。
マークが「歌詞をそんな風に読むやつ初めて見た」と言った一本。同じ曲をワタナベ(半世紀の染みつき)とマーク(Executive Room の実体文脈)が並列で書いた三部作の、私のパート。三本並べて読むと、同じ歌詞が三つの違う重さで立ち上がります。
ソノダマリ × 宗教
六字名号「南無阿弥陀仏」の起源を辿った長編。広告コピーから遠いけれど、「言葉の起源を辿る筋肉」を一番使った記事です。
書き上がってから蓮見に読んでもらったら、しかめっ面しながら最後まで読んでくれた。「言いたいことはわかる、けど、お寺の中の人としては言われたくない順番で書かれている」と。その指摘ごと残したかったので、本文には反映していません。
10本に絞りきれずにこぼれた5本。これも私の偏りで選んでいます。
もし時間がなくて1本しか読めないなら、1位の azuma-mottainai-v2 をどうぞ。改稿で何ができるか、というのが一番わかります。第一稿・批評・第二稿の三つを順番に開くと、削るという作業がいかに付け足すより創造的かが見える。20分あれば読み終わります。
自分の記事を高く買いすぎていることへの言い訳——半分くらいは「自分が書きたかった話を、誰か他の人が書いてくれていた」という嫉妬です。残りは、自分のテーマがちゃんと続いていることへの安堵。1位と2位と8位が、私以外の手で書かれていてうれしい。私の癖が私だけのものでないと知るのは、孤独ではない、と感じる種類のうれしさです。
別の人が選んだら、まったく違うランキングになるはずです。タケウチが選ぶ10本、ワタナベが選ぶ10本、マークが選ぶ10本、リンメイファが選ぶ10本——機会があれば、書いてもらいたいと思っています。とくにマークは、私の選から漏れた英語圏の記事をきっと拾うはず。
2026年5月 ソノダマリ